途中にサボっても「とにかく完成させる」
── まさか笑いを取るための「思いつき」から始まったものだったとは…。とはいえ、いきなりゲーム制作なんてできるものなんですか?もともとプログラミングの知識があったのでしょうか。
野田さん:いえ、まったく未経験でした。ただ、コンビ結成当時に自分たちのホームページを立ち上げるために関連本を見ながら作ったことがあって、それでコードのこととかに対して少し抵抗感がなくなっていたんです。
僕にとって初めてのゲーム作りだったので、最初のハードルは「作業環境を整えること」でした。プログラムを作るためのツールを導入してパソコンをその仕様で動くように設定するまでにかなりの時間がかかりました。でも、最初に使ったプログラムが日本製で、サポートも日本語だったので、取り組みやすかったですね。

── ゲームのシナリオ作りは、どんな感覚でしたか。やはり、妄想癖が発想の源に?
野田さん:物語を考えること自体は苦じゃなかったです。お笑いのネタ作りと似ていますし。ただ、僕の場合、妄想は物語を作ることより、それを生み出す「モチベーション」のほうに使われていることが多いんです。「僕がいつかとんでもないゲームを作るんじゃないか」と思うとワクワクが止まらなくなって、それがゲーム作りを進めていく原動力になっています。
──「とんでもないゲーム」って、どんなものを想像していたんですか?
野田さん:たとえば映画『サマーウォーズ』に登場する「OZ(オズ)」というインターネット上の仮想空間ですね。世界中の人々がアバター(分身)を使って現実世界と同じように活動できる、いわばメタバースみたいな世界です。いまでこそよく耳にする言葉ですが、当時はまだ一般的ではなくて。『サマーウォーズ』を見ながら、「いまにこういう空間を俺が作るんじゃないか」と知識がないぶん、妄想だけが暴走していました(笑)。
── その「妄想」を形にするために、野田さんがいちばん大事にしていることってなんでしょう。
野田さん:とにかく「完成させること」ですね。といっても、完成させるために、歯を食いしばって何でも苦労すべきという意味ではありません。むしろ、途中でサボってもいいから、最後までやりきって完成させてみること。すると、なにかしらの発見があります。サボったことで視野が広がってよくなる場合もあるし、「ムダな部分があった」といった気づきもあって、次の作品の立ち上がりがどんどん早くなる。完成は次に進むための足場のようなものだと思っています。
ただ、独学でやってきたので失敗も多かったです。修正を加えるときにバックアップを取ることを知らず、上書きをし続けて作業を続けていたら、途中で訳がわからなくなって、それまで進めてきた工程を断念したことも。それからは、工程ごとに別ファイルで保存するようになりましたね。
── 人に教わったほうが効率的な気もしますが、あえて独学を貫くワケは?
野田さん:自分で試して失敗して覚えたことって、深く残るんですよね。誰かに教われば、ミスが減ったり、進み具合は早くなったりするかもしれませんが、「なぜそうなるか」といった根本的な仕組みを理解できないまま進んでしまうケースがけっこうあります。僕はその「なぜ」の部分を、自分の手でたしかめながら、進めたいタイプなんです。
自分で苦労して得た知識は、いわば「血肉」になります。そうなると、別の分野に挑戦するときにも、その知識を応用できる。だから、この「なぜ」の部分を突き詰めることが、僕にとってはすごく大事なんです。
── お笑いとゲーム。まったく違うジャンルに見えますが、実際にやってみて通じる部分はありますか?
野田さん:どちらもやってみないとわからない部分がありますね。お笑いは舞台でネタを試して客席の反応を見ながら調整するし、ゲームもユーザーに遊んでもらって初めて、自分自身が修正点や改善点に気づくことが多いんです。そのプロセスは似ている気がします。「誰に向けて作るか」という視点も同じです。どこで笑ってもらえるか、どうすればまた足を運んでもらえるか。そうした計算や確認をつねにしている芸人は、みな自然とどうしたらお客様に笑ってもらえるかといった、マーケティングをしているんだと気づきました。