「好き」という衝動を出発点にしながら

── 電車内の吊り革に誰がつかまれるかをオンライン対戦で競うといったアクションやパズルなど、シンプルながら中毒性が高い個性的な発想と独自の世界観を持つ野田さんのゲームは、「野田ゲー」と呼ばれ、ファンに広く愛されています。「野田ゲー」らしさをご自身ではどうとらえていますか?

 

野田さん:いまはチームでゲームを作るようになってきたので「野田ゲー」らしさは定義しないようにしています。意味づけしすぎると、勝手にジャンル化して作るゲームが狭まっていく気がして。とはいえ、見る人が見れば「これは野田が作ったな」と感じ取れる「匂い」はあるのかなと。それで十分なんじゃないかな。それはお笑いでも同じです。

 

── 自分で定義しないというのは、ある意味で潔いですね。「自分はこう」と打ち出すのではなく、それは受け手が感じ取るものだと。

 

野田さん:それが結局、「らしさ」というものになって、その「匂い」を気に入ってくれた人が、ファンになるということだと思うんです。

 

野田クリスタル
野田さんの開発するゲームは「野田ゲー」と呼ばれファンに愛されている

── お笑いもゲーム業界も「好き」を仕事にしている人たちです。ジャンルの違う人たちと交流するなかで、刺激を受けることはありますか?

 

野田さん:やっぱり「好き」と「仕事」が噛み合った瞬間のパワーって、とてつもないんですよね。最近、ファイナルファンタジーXIVを監修した吉田直樹さんと対談させていただく機会があったんですが、とにかく「ゲームが好き」という熱量がケタ違いな人なんです。制作の真っ最中でも、合間に別のゲームに夢中になってしまうほど、純粋な情熱に突き動かされている。その姿勢にすごく刺激を受けました。

 

ただ、自分の熱量を周りにどう伝染させ、巻き込んでいくかは、本当に難しい部分ですよね。「やる気を出せ」と押しつけても逆効果で、状況に応じて周りを休ませ、持続的に力を発揮させる冷静さも必要。結局、「情熱と理性」をあわせ持つ人が周りを動かしていくんだと思います。

 

お笑いも同じです。周りを見ていても、成功していく人って、最初は尖った感覚や奇才ぶりが光っているんですけど、周りを引っ張るような立場になると、場の空気を読んだり、ほかの人の力を引き出したりする感覚をあとから身につけていくんです。すべては「好き」が出発点。でも、その個人の衝動を、どうやって周りに伝染させて大きな渦を作っていくか。それに気づけたのは、やっぱりゲームという別の世界に関わったからこそですね。

 

 

幼少期の10円玉RPGから始まり、お笑い芸人としてのキャリアを築きながら、独学でゲーム制作の世界に飛び込んだ野田クリスタルさん。活動の根底にあるのは、幼いころから変わらない「妄想グセ」と「好き」を突き詰める姿勢でした。そんな野田さんは実は筋肉芸人としても知られる肉体美の持ち主。好きがこうじて筋トレジムのプロデュースも行うほど多忙な日々を送っています。

 

取材・文/西尾英子 写真提供/野田クリスタル