真夜中に別人の自分と葛藤し

── 私自身も産後はハイのような状態でまったく眠れなかった記憶があるのですが、自分が自分でなくなる感覚というのはかなり怖いですね。

 

野波さん:私もまさにそのハイの感覚がありました。「あのベランダから空を飛んでみたい」とバカみたいな好奇心にワクワクしたかと思えば、「ちゃんと子育てできるのかな」と急に漠然とした不安に襲われて泣きたくなったり。でも、夫と娘が横ですやすや寝ている姿を見て「いやいや、何を考えているの。私は大丈夫!」と、次々溢れてくる気持ちとひと晩中格闘して翌朝を迎えました。すると夜中の自分が別人だったかのように気持ちが落ち着いてきたんです。「家族が近くにいてくれてよかった」と心から思いました。

 

野波麻帆さんと二人の娘
モルディブの水上コテージを歩く野波さん親子

── 落ち着いたようで安心しました。

 

野波さん:ひと晩だけのものすごく不思議な体験だったのですが、やっぱり出産って本当に命懸けでものすごいエネルギーを使うものなんだと思いました。気持ちは持ち直していましたが、入院中は歩けなかったので車椅子で過ごして、退院しても杖を使っていました。

 

── 目の前には生まれたばかりの我が子がいるのに、思うように歩けないとは大変な時期を過ごされましたね。

 

野波さん:産後2、3週間くらい経ってからようやく歩けるようになりました。入院中も先生に相談しましたし、別の病院でも診ていただいたのですが、足がなぜ動かないのかは調べていただいてもわかりません。骨や神経には異常がないと言われ、原因がわかりませんでした。

 

── 妊娠中は出産をゴールと考えてしまいがちですが、その先に起こりうることも考えておいたほうがいいですね。

 

野波さん:メンタルに関しては自分は弱いほうではないと思っていて、精神的な部分で苦労してきた経験が今までないので、まさか産後にこのようなことが起きるなんてと私自身がいちばん驚きました。

 

今は出産に関していろんな選択肢がありますが、なるべく何かあった際にすぐに対応できる病院を選ぶことをおすすめしたいです。それと、コロナ禍で厳しくなったところもあると思いますが、やっぱり普段の様子をよく知っている家族が近くにいられることも大事だと思います。長女のときのような安産が出産の当たり前ではなく、お産はいろんな形があることも知りましたし、改めて命の尊さについて考え直すきっかけとなりました。

 

取材・文/内橋明日香 写真提供/野波麻帆