「音響も担当」劇団の舞台に立つ現在

── 事務所の社長の優しい言葉かけの裏に愛情を感じますね。退所されてからはどのような活動をしているのですか。

 

福田さん:長年働いているカフェで友人たちと働きながら、お芝居のオファーをいただいたときにお引き受けさせていただいています。私自身は事務所や劇団に所属はしておらず、個人で活動をしているという感じです。

 

福田麻由子さん
主演声優をつとめた映画のイベントに参加した際の福田さん

出演者の方も含めてまったく面識はなかったのですが、役に合うと思ってくださって連絡をいただき、話を詳しくうかがってお受けしました。5人の演者だけのミニマムな舞台をしたのですが、実は私、音響も担当したんですよ。演劇のパンフレットにチラシを挟むことなども、一つひとつ手作業で自分たちでして。演劇って、本気でやろうと思ったらどんな形でもできるんだということにも気づけましたし、この年になって背筋が伸びる思いがしました。

 

── 小さいころから人気ドラマなどで活躍され、天才子役と言われていました。こういった舞台は初めてですか。

 

福田さん:すべてが事前に準備された環境で演じてきたので、事務所にいたときとは違う経験をしている感じがして、すごく勉強になっています。順番が逆と言いますか、本当はもっと前からこういうことをしてこなきゃならなかったんだなと思います。何より、しばらく演技から離れていた私のことを思い出して、お芝居のオファーをくださることがありがたいです。

 

仕事先との連絡やその後のやり取りなど、事務所の方はこういったことをすべてしてくれていたということもありがたく感じています。たとえば仕事をお断りするとき、これまでの私は「ごめんなさい」とひとこと事務所の方に伝えるだけ。今は私にオファーする理由や思いについて相手の方が長いメールくださることも、それに対してお断りの返事をすることがどれだけ重みがあることなのかも感じています。自分の言葉で伝えて責任を持つことの大切さや、言いにくいことも自分でしっかり伝えることが、相手との信頼関係にもつながると感じています。

 

── この取材のやり取りも福田さんと直接させてもらっていますね。

 

福田さん:不慣れながらも日々勉強で、今はすべての窓口が自分です。たぶん世の中の多くの方は、学校を卒業してから少しずつ社会の仕組みを学んでいくと思うのですが、私は10歳から事務所の方に周りのことをすべてしてもらっていました。仕事相手の方から「請求書を送ってください」と言われたときには「請求書って何!?」というところから始まって。出演する舞台の初日に恥ずかしい思いをしたこともありました。

 

舞台の初日に、初日祝いとして私はたくさんみかんを買って行ったんです。でも、壁に初日祝いの「のし」がたくさん貼ってあるのを見て、「あ、たしかに今までそうだった」と。初日祝いにはのしを添えて贈るのが通例で。今まで事務所の方にしてもらっていたことを一つひとつ、これはどういう経緯で誰がやってくれているんだろうというのを考えて、それを実際に自分でやってみるという日々を送っています。