飾らないトークとキレのあるコメントで支持を集め、11月7日(金)より東京・明治座で開幕する舞台『醉いどれ天使』にも出演する佐藤仁美さん。俳優としてドラマや映画に出演する一方、バラエティ番組でも抜群の存在感を放っています。確立されたキャラクターを持つように見える彼女ですが、長いキャリアのなかでは自分らしさを見失い、もがいた時期もあったそうで──。
バラエティ番組での「うるせぇよ」から、吹っ切れた
── 俳優として90年代から数々の作品に出演してきた佐藤仁美さんですが、今年で芸能生活30周年を迎えられました。テレビを通して、いろいろな姿を見てきたように感じますが、佐藤さん自身、これまでの長いキャリアで仕事への向き合い方はどう変化しましたか?
佐藤さん:10代後半でデビューしてからはとにかく必死で、目の前にあるものをひたすら追いかけていく、という感じでした。デビュー後は『リング』や『バトル・ロワイヤル』などの話題作品にも恵まれ順風満帆でしたが、20代後半ぐらいから仕事が減ってきて「女優としてこのまま続けていっていいのかな?」と思うようになって。
30歳を過ぎたくらいで、1年ほどまったく仕事がなくなったことがあったんです。それまでは女優ぶっていましたけど(笑)、「今さら芸能以外の仕事、できないしな…」とバラエティ番組にも挑戦。それが、ひとつの転機になりました。
失うものがなくなった状況で「もう嫌われてもいい」って、気持ちが吹っ切れたのかな。バラエティ番組で「うるせぇよ」とか、ちょっと口が悪いようなコメントもするようになったら、それが意外とウケちゃって。「あれ、みんな結構、受け入れてくれる」って思ったら、とても気が楽になったのを覚えています。

── それが佐藤さんの飾らない姿だったんですね。
佐藤さん:そのころから仕事が楽しくなって、落ち込むこともなくなりました。
── カメラの前で「素を見せられる」ようになったきっかけは何かあったのですか?
佐藤さん:「役者にはムダな感情がまったくない」と気づいたときですね。というのも、飼っていた猫が死んでしまって悲しみに暮れていたときに、同時にめちゃくちゃおもしろいことが重なったことがあって。「こんなぐちゃぐちゃな感情って、なかなかない」と思って、「いまどんな顔してるんだろ」と、思わず鏡を見てしまったんです。そのとき「これって、悲しいけどうれしい報告を聞いたときの、アル・パチーノの『ゴットファーザー』ときの感情だ…!」と思って。「なるほどねぇ」と、妙に腑に落ちました。
── 一般的には悲しみに暮れる場面で笑うことは不謹慎だと思ってしまい、自分の感情には蓋をしてしまいがちです。でも自分の気持ちに正直になることは、役者としては大切なことなんですね。
佐藤さん:そうですね。だから、そこから喜怒哀楽には素直になろうと。役者にはムダな感情はないんだ、と思うようになって。「嫌われてもいいじゃん」というのもあいまって、さらに仕事が楽しくなりました。
── 自分の感情に正直になったら新しい気づきがあったのですね。