出産して母の気持ちがより理解できた

── 病気を経て、奇跡の妊娠。出産をした今、振り返って思うことはありますか?

 

長藤さん:自分が子どもをもつ母になって、母親の立場で闘病中のことを振り返るようになりました。母が闘病中の私を見るのはつらかっただろうなと。

 

入院中はコロナ禍だったため基本的に面会NGだったのですが、抗がん剤治療中にあまりにも体調が悪くなってしまい、特別に1日だけ母との面会が許されたことがありました。起き上がることもできない弱った私を見ただけでもショックだったと思うのですが、久しぶりに母につき添われてシャワーに入ったときに、目の前に大きな鏡があったのですが…そこに映った私の姿は治療のせいで髪も抜けているしガリガリにやせていて、自分でもショックを受けるような姿でした。

 

そうしたら母がそれに気づいたのか、頭からバスタオルをかけて「大丈夫だよ」と笑顔で頭をふいてくれて。それがまるで花嫁のヴェールみたいで、本来であればそうであってもおかしくない年齢なのに、自分はどうして今ここにいるのだろうと泣いてしまいました。今も、娘の頭をふくたびに私が母の立場だったら笑顔で拭いてやれるだろうか、きっと涙をこらえられないだろうなと、親になって改めて母のつらさもわかりました。

 

── 病気を経て、お子さんに対して思うことはありますか?

 

長藤さん:病気をしたことで人生なにが起こるかわからない。自分が娘の母親でいられることも当たり前ではないと思っています。

 

2025年7月に抗がん剤治療から5年が経ち寛解期間を終えましたが、それまでの5年間は自分になにかあるかもしれないという想いが特に強かったです。そのときに家族に今の奇跡のような日々を残したいという気持ちで、SNSで記録をつけ始めました。私にとっては娘に残すための日記のようなものなのですが、今ではたくさんの人が見てくださるようになりました。

 

── SNSで発信することで同じ病気で悩んでいる人たちからの反響も大きいのではないかと思います。

 

長藤さん:病気になった当初は私も病気について人に話すことがいやでした。でも、自分が闘病中に同じ病気をしたのに出産して子育てをしている人のSNSを見て、とても勇気をもらいました。それだけでなく卵巣がんは意識していないと気づけない病気です。ちょっとの不調でも決して無視してはいけないという気づきになればと。また、私のように卵子がほとんどない状態でも自然妊娠できたことが、同じように悩んでいる人の希望になればいいなと思っています。

取材・文/酒井明子 写真提供/長藤由理花