「美しさの基準が画一的」なことにモヤモヤも

── 身近にアルビノの方はいらっしゃらなかったのですか。
藪本さん:当時はそうです。人づてに探しても見つからなくて、視覚障がい者が集まる場所に連絡してみましたが、「個人情報は教えられない」と断られて。2、3年くらい探して、ようやく紹介で会えたんです。同年代の女性だったこともあって、初めて会ったときは鏡を見ているような不思議な気持ちになりました。
共通の話題が多いので、会えてうれしかったですね。2人とも、アルバイトに採用されるのが難しかったことは共通していました。彼女の大学の先輩にもアルビノの方がいらして、その方も紹介してもらいました。それまでも私の気持ちに寄り添って話を聞いてくれる友達はいましたが、「わかるわかる!」と共感してもらえるのは初めてでした。すごく支えになりましたね。
2人に会えたことで、「私と同じように、アルビノの人に会いたいと思っている当事者の方がほかにもいるかもしれない」と思うようになりました。「アルビノの人同士が交流できる場をつくりたい」という話をしたら、2人も「それはいいね」と言ってくれて、彼女たちに見守られながら「アルビノ・ドーナツの会」を立ち上げました。
── どのようにアルビノの方を集めたのですか。
藪本さん:当時、メールなどで交流をしているアルビノの人たちがいたので、連絡してみました。そこで知り合ったのが、現在は「アルビノ・ドーナツの会」の顧問を務める方です。当初はふたりで会う約束をしていたのですが、その方が「せっかくならその日を交流会にしましょう」と提案してくださったんです。
第1回目の交流会は、大阪で開催しました。当日は20組くらいの方が集まってくださいました。アルビノのお子さんとご家族という組み合わせが多くて、みなさん「こういう機会を待っていました」と言ってくださいました。
今年で「アルビノ・ドーナツの会」を立ち上げて18年です。コロナ禍のときを除いて、年1回はリアルで集まる会を開催しています。
── 交流会では、どのようなことが話題に上ることが多いですか。
藪本さん:子どもたちの保育園や幼稚園、学校の話が多いですね。中学生以降になると部活の話題も出ます。あとは病院の情報交換ですね。アルビノの治療法はまだ確立されていないのですが、症候性といって、出血をしやすかったり、消化器や呼吸器に疾患が発生したりするケースもあるので。私の家族も、私が産まれて「どうやって育てていけばいいんやろう」と思ったときに、こうして相談できる場があればよかったな、と思います。
── 藪本さんが苦労された就職の問題などは、改善されたのでしょうか。
藪本さん:採用基準を緩和する動きはあります。ただ、「多様性を尊重するため」という働く人の働きやすさの改善に積極的な企業がある一方で、「人手不足解消のため」という理由で緩和しているところもあると感じていて、社会全体に根本的な理解を得るにはまだまだこれからだと思います。ただ、学生のころに私が伝えられたほど厚い壁はないですね。企業で一般の雇用形態で働いているアルビノの人もたくさんいます。
私は今、「アルビノ・ドーナツの会」の活動をしながら、人権を守るために活動している協会の「見た目相談センター」で相談員をしています。私の講演を聴いて、「見た目のせいで働きづらさや生きづらさがあるのは、個人の問題ではなくて、社会の問題です」と意見をくださった方がいらっしゃるのですが、その方に紹介していただきました。大阪にある「Talk with」という、カウンセリングが受けられるチャイ専門店でも、オリジナルチャイ調合ワークショップの案内役をしています。
アルビノという切り口で活動を始めましたが、相談員の仕事を通じて、ほかにも見た目問題を抱える人や、外国にルーツを持つ人が、外見で偏見を持たれていることを知りました。特に日本では、ルッキズムが強くなっていると感じますし、「美しさ」の基準が画一的で、モヤモヤを感じることが多いです。「見た目問題」は、見た目の問題ではなくて、見る側の問題なんですよね。
多様な見た目の人が受け入れられる社会は、まだ実現していないと感じます。それでも、生きづらさを感じている人が、ようやく声を上げられるようになってきました。これからも、当事者の声を広めていきたいですね。
取材・文/林 優子 写真提供/藪本 舞