「介護されたくない」頑固者の母が突然倒れて
── お母さんの介護も経験されたのですか?
erincoさん:母は今年の1月に倒れて、そのまま突然亡くなったので、介護する間もなかったんです。父の介護を経験する前から、母は「私は絶対に介護されたくない」と言って、脳が衰えないようにといろんな努力をしていました。母はやると決めたら絶対に続ける頑固なタイプなので、60代で書道を始めて師範になっていましたし、私と一緒にピアノを習い始めたのも70代で、82歳のときに初めてピアノ発表会に出ていました。何事を始めるのにも年齢は関係ないというのを体現していた人でした。
「100歳まで生きてエリをずっと見届けたい。エリの子どもも見たい。そのためにがんばって、介護もされないで元気でい続ける」というのが口ぐせだったんです。
── お母さんが今年の1月に倒れたというのはどういう状況だったのでしょうか?
erincoさん:年始に、母が自分の姉と妹と一緒に温泉旅行へ行ったんです。母と入れ違いで私も友達と海外旅行へ出かけたので、9日間は会わなかったのかな。無事に帰国して2日後の朝、仕事に行こうと玄関へ向かうとき、リビングから「パタッ」という音が聞こえて、見に行ったら母が倒れていたんです。いままで持病もなく、ずっと元気な母だったので驚きましたが、「お母さん」と呼んでも反応しないし、職場のスポーツジムで習った「意識がない人」に見られるようなあえぎ呼吸をしていたので焦りました。
119番に電話をしたら「すぐに心臓マッサージをしてください」と言われ、電話をスピーカーにして、指示された通りにやりました。心臓マッサージをするのは初めてだったけど、私がやるしかないと思って夢中でした。5分以内に救急車が来て救急隊員さんが交替してくれましたが、病院に着いてもずっとマッサージしているんですよ。あ、まだ心臓が動いていないんだと。そこから医師に呼ばれるまでの1時間、母はどうなるんだろうと思って、長かったしつらかったです。
── お医者さんは何と?
erincoさん:「お母さんはくも膜下出血と脳梗塞を併発して倒れました。30分間心臓が止まっていたのですが、30分後、奇跡的に動き出しました」と言われました。心臓が10分以上停止していたらほとんど戻ることはないらしいので、お母さんすごいですって。ただ、意識が戻っても植物状態になりますと言われました。数日前まで旅行して、1時間前まで元気だったので、もう急展開すぎて頭が真っ白になりました。頼れるのは母のきょうだいだったので、九州にいる叔母に電話をして来てもらいました。結局、母はそこから意識が戻らず、5日後に天国に旅立ちました。でも、意識が戻らなくてよかったと思っています。意識が戻ったら絶対に体じゅうが痛かっただろうし、みんなが元気な母しか思い出せないこの状況は、母が望んでたことなんじゃないかなって。83歳でした。
── 亡くなるまでの5日間は病室にずっとつき添っていたのですか?
erincoさん:基本的にはそうですけど、逆に5日間も時間をくれたので、心の準備ができました。働き者の母は、私が何もしないでいるのは絶対に喜ばないだろうな、と思って、伯父に手伝ってもらいながら亡くなるまでにしておいたほうがいい手続きなどを進めていました。