いまでも後悔している出来事

── 多感な時期に周囲からあれこれと言われるのは、気になってしまうと思います。

 

大屋さん:いまでも後悔しているんですが、両親に「(参観などで)学校に来ても絶対に手話で話しかけないで」と言ったことがあります。両親は「わかった」と。以来、私は学校で両親とは絶対話しませんでした。でも、ふたりは学校行事は必ず見に来てくれたんです。当時のことを思い返すと、すごく申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになります。

 

──「手話がイヤ」というネガティブな思いは、どのように乗り越えたのでしょうか?

 

大屋さん:中学2年生のときに母と一緒に東京へ旅行に行ったときのことです。話すことが禁止で、手話か筆談、ジェスチャーでコミュニケーションをとる喫茶店に入ってみたんです。手話を楽しむ喫茶店なのですが、その場所を訪れたのが大きな転機になりました。入口には「店内では声を出してはいけません」と、書いてありました。今は「手話カフェ」というジャンルが確立され、いろんなところにお店があるのですが、その先駆けみたいなところだと思います。

 

店内に入ってみたら、とてもひっそりとしていて静か。でも、みんな手話や筆談、ジェスチャーで、さかんにコミュニケーションをとっていたんです。その様子が、すごく心地よくて。私は日常生活では音声言語である日本語の会話がほとんど。手話を使うのは家族や一部の限られた人とだけです。でも話すことができない状況では、こんなに周囲へ気兼ねすることなく、のびのびと手話でおしゃべりできるんだと感じました。もし私が音声言語の日本語しか話せなかったら、この静かで豊かな時間を知ることがありませんでした。