「難病の弟を治したい」が新たな目標に
── 自分でスランプ脱出ができるのは強いですね。ピアノに加え、ふたりとも現役で大学の医学部に合格。ピアノと勉強の両立はさぞ大変だったと思います。
宗一郎さん:小学3年生のときに、難病のため24時間医療的ケアが必要な弟が生まれ、それからずっとふたりとも弟の病気を治したいと願い続けてきました。ですから、ピアノはずっと続けてきた大切な存在ではあったのですが、ピアノ一択の人生を選ぶつもりはありませんでした。
弟との生活をとおして、弟や病気の子どもたちのために何ができるかを考えに考え抜いて、実際にふたりとも医学部受験を決めたのは、高校1年生のときです。ただ、高3の7月末まではリサイタルの予定があり、その後ようやく勉強に集中できるように…。受験勉強ではピアノの練習で培った計画管理や考え方、本番での集中力が役に立ちました。
順一朗さん:とにかく、浪人だけはしないよう、必死でした。ピアノも受験も僕たちは双子で、一緒にがんばる相手がいたからここまでできたと思います。イヤだと思っても、目の前でがんばっている相手の姿を見たら、「やるしかない」ですから。それぞれ勉強の得意や不得意分野が異なるので、得意な部分を教え合ったり、ときにはよきライバルになったりと、お互いの存在はありがたかったです。

── 医学部に入学してからは、どのような生活を送っていますか?
順一朗さん:人生で初めて、お互い別の学校に通っていますが、時間を合わせてピアノの練習時間を確保しています。医学部はレポートやテストが多くて忙しいのですが、コンサートのかなり前から練習をはじめるなど、工夫しています。ピアノや学業だけでなく、友だちと過ごす時間も大切していますし、弟のお世話もしていますよ。
── 弟さんへの思いから志した医師とピアニスト活動の両立について、今後はどのように考えていますか?
順一朗さん:小4のときから始めた、障がいや医療的ケアが必要な子どもたちに向けたボランティア演奏活動はずっと続けたいです。これまでの演奏ツアーで行ったことがない地域や海外での演奏にも興味があります。また、弟の病気を治したい気持ちから医師を目指しているので、小児科医に興味はありますが、研修でいろんな科をまわって、自分の興味をたしかめたいと思っています。
取材・文/岡本聡子 写真提供/兄―ズ、株式会社 Moon