家族はワンチーム「役割を話し合いで決める」
── おふたりは、家で弟さんのサポートをすることはありましたか?
順一朗さん:小学生のころは僕たちが幼すぎて、命に関わるお世話はできなかったので、絵本の読み聞かせを行ったり、ピアノを弾いて聴かせたりしていました。中学生になると、おむつを替えたり、食品をすりつぶして胃ろう(おなかに開けた小さな穴にチューブを通し、直接胃に栄養剤や薬剤を注入する方法)で、摂取するための介助ができるようになりました。高校生になってからは、介護全般を一人前にできるようになりましたね。

── 24時間医療的ケアが必要ですものね。弟さんのサポートは、家族が話し合って決めているのでしょうか?
順一朗さん:山下家は毎年、弟の世話、ピアノ、勉強などについて、家族としての目標を決めて頑張る家なんです。だから「ワンチーム」として、弟の世話についても話し合いますし、ピアノや受験も、家族で話し合って目標ややるべきことを決めてきました。いわゆる家族会議ですね。
進路決定のときは自分で予備校の情報を集め、自分の弱点を分析して「この科目をこれだけ強化したいから、この予備校に行きたいです」と両親にプレゼンしました。もちろん、両親からは「これは違うのでは?」「もっと取り組むべき箇所があるのでは?」と指摘を受けることもあり、すんなり通るわけではありません。でも、自分では気づかない点を指摘してもらえるのでありがたかったです。
ピアノでいえば、毎年のピアノコンクールへの挑戦も家族で話し合いましたし、リサイタルの選曲・曲順やMCでこんなことを話そうかな、という相談もします。YouTubeの動画編集は父、計画管理は母、僕たちは演奏、というふうに、それぞれが得意分野を活かして協力しています。
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ここまで才能が開花できたのは、親御さんのサポートはもちろんですが、ときにはよきライバルとなるお互いの存在が大きかったそうです。難病の弟のため、実際に医学部受験を決めたのは高校1年生のときだったそうですが、ピアノで培った計画管理や集中力を生かし、互いに励まし合った結果、目標を達成。今は別々の大学で医学を学びながら、ピアノの練習や弟の世話も続けているそうです。
取材・文/岡本聡子 写真提供/兄―ズ、株式会社 Moon