ピアノ弾くと弟の頬の血流量に変化「聴こえてる」
── それはうれしいですね。でも、人工呼吸器や設備を持参しての外出は大変ではないですか?
宗一郎さん:たしかに、弟との外出には準備が必要です。泊りがけの旅行には、車椅子以外に人工呼吸器やチューブ、替えのボンベ、痰の吸引機、サチュレーションモニター(血中酸素濃度測定器)など合計数10キロはする機材や、おむつ・薬など必需品も持参しなければなりません。
順一朗さん:弟との外出は車いすをそのまま乗せるために、大きなレンタカーを借りての移動になります。でも、「弟がいるから好きな場所に行けなかった」などの制約や不満を感じたことは一度もありません。工夫すればちゃんと旅行はできます。街なかでも、「あ、段差だ!持ち上げるのがしんどいな」と思うときはあっても、不便に感じるだけで、とくに憤りやめんどうくさいなどとは感じません。逆に、エレベーターやスロープを見つけると、「あった!ありがたい!ラッキー」と、盛り上がる感じです。

── 近年、バリアフリー設備や場所が増えましたね。それでも、お話をうかがっていると、ご家族は外出の準備に心を配っていることがわかりました。
宗一郎さん:弟と同じように、医療的ケアが必要なお子さんやそのご家族は、外出が難しいケースが多いと思います。僕たちは小学4年生のころから、ふだん生の音楽に触れる機会が少ない子どもたちや障がいのある人たちに向けて、ボランティアで演奏を届けてきました。初めは近所の保育園、弟の通っていた医療センターなどから始まり、全国のさまざまな場所で活動しています。
演奏している最中も、聴衆からの反応がじかに伝わってきますし、あとから「ふだんは子どもが寝たきりだけど、演奏を聴いて身体を動かしていた。こんなに喜んでいるのは見たことがない」と、親御さんから感想をいただくこともあります。「本当に楽しかった」と言ってもらえると、みなさんの力になっていると感じてうれしくなります。この活動は、高校3年生の受験生のときも続けていました。
── 弟さんも、兄たちの演奏を喜んでくれているでしょうね。
宗一郎さん:家でピアノを弾くと、それまで寝ていた弟の目がぱっちり開いたり、身体を動かすことがあったりして、たしかに聞こえているんだ!と感じることがあります。
順一朗さん:1度だけ、弟の頬の血流量の変化を測定したことがあるのですが、読み聞かせとピアノの演奏のとき、頬の血流量に変化があらわれたそうなんです!やっぱり聞こえているんだ、と本当にうれしくなりました。