100年以上前に「積極思考」を提唱し、一流経営者や有名アスリートが傾倒しているとして再注目の思想家・中村天風。女性のタレントや作家にも、その教えにハマっている人が増えているよう。10年にわたって中村天風にまつわる書籍の編集や執筆を担当し、このたび新刊『中村天風 人生の「主人公」になる教え』を上梓した堀田孝之さんに、再ブームの理由を聞きました。

意外な人がハマっている「中村天風の教え」

中村天風は「自分の力ではどうしようもない運命などほとんどない」という考えのもと、心を「道具」としてとらえて、自分を思いどおりにコントロールして前向きにするという「積極思考」を提唱した明治生まれの思想家です。一流の経営者やアスリートに支持されたことから、「目標達成のためのスキル」や「成功哲学」として注目されてきました。

 

それが近年、女性タレントが中村天風の本を読んで、「焦ったり悩んだりすることをやめた」「ネガティブな思考から距離を置く」と語ったり、女性の作家が「中村天風好き」を表明するなど、女性たちの間にじわじわブームが広がっているんです。

そんな中村天風自身は生前、苦難の人生を送っています。30歳のとき、当時「不治の病」といわれた肺結核にかかってしまいます。どんな治療をしても治らず、死を覚悟した彼は、ヨガの聖者と運命的な出会いをします。そして、ヒマラヤ山中でヨガの修行に専念するなかで、「心を積極的にする」ことが人生を変えるのだと悟りました。その後、彼はついに病を克服。帰国後、その思想を体系化し、92歳で逝去するまで普及活動に尽力しました。

 

ちなみに、来年後期のNHK連続テレビ小説『ブラッサム』のヒロインのモデルである小説家の宇野千代さんも、中村天風の熱心な支持者として有名です。彼女が何十年にもわたって1行も書けない大スランプに陥ったとき、中村天風の教えが逆境を乗り越える手本となり、「蘇生したように書き始めた」と著書に書き記しているほどです。

「自分らしい人生を大切にしたい」と願う女性から熱い支持が

中村天風が現代女性に注目されているのは、男性優位時代がいよいよ終わりを告げたからではないでしょうか。女性と男性が対等に働くことが当たり前になり、生き方の選択肢も圧倒的に広がりました。仕事をするのもしないのも、結婚するのもしないのも、子どもを産むのも産まないのも「私の自由」。他人に振り回されず、自分がやりたいことをやる。自分の生きたいように生きる。そんな「自分らしい人生」を何より大切にしている女性が増えていますよね。

 

一方で、世間は混沌として、複雑さを増しています。どんなに「自分らしく生きよう」と思っても、人と比較して落ち込んだり、人の顔色をうかがって無理してしまう場面も少なくありません。情報におどらされて自分を見失ってしまう人や、頑張りすぎてメンタルトラブルを起こす人も増えています。

 

女性が強く生きていかなければならない現代は、ますます「心の拠りどころ」が必要です。だからこそ、シンプルで説得力のある中村天風の教えが、改めて見直されているのだと感じます。