夢だった職業を絶って別の人生を目指した
── そんな後藤さんが一歩踏み出したのは、6年後の2024年でした。背中を押したのは、どんな思いだったのでしょうか。
後藤さん:3年前、30歳のときに結婚し、これからの生き方を考えたときです。学生の頃から夢だったグランドスタッフに就いてたくさんの経験をしたなかで、今後も空港で働き続ける自分がどうしてもイメージできなかったんです。本当にやりたいことはなんだろう。そう自問したときに、頭に浮かんできたのが「介護」でした。
17歳で父の介護を始めてから、私の人生にはずっと介護がついてきました。でも、それは決して前向きな記憶ではありませんでした。多くのことを犠牲にしてきたし、周りの目も冷たくて。学生時代から長年つき合ってきた彼氏ですら、「次から次へと介護を担う環境が理解できない」と言われ、別れました。
社会人になってからも介護経験者は周りにおらず、会社を休むときも肩身が狭かった。介護離職もうつも経験して「どうせわかってもらえない」と、人との距離をとるようになっていたんです。もちろん父や祖父、祖母との幸せな時間はありましたが、それでも介護は私にとって「黒歴史」のように封じ込めたい記憶で、コンプレックスでした。
でも、それで終わらせるのは、父や祖父にも失礼だと思ったんです。介護を頑張ってきた自分自身を否定することにもなってしまう。この経験をどうにかポジティブなものに変換したい。介護美容を通じて私の経験を発信すれば、今つらい思いをしている人たちに「こんな道もある」と、感じてもらえるのではないだろうか。その思いに背中を押されました。

2024年に千葉に移り住んだのを機に航空会社を退職。介護職員初任者研修を取得し、その年の10月から介護美容の養成学校に入学しました。現在は、学校に通いながら、老人施設で「ケアビューティスト」としても活動し、利用者の方にネイルやエステを提供しています。