美容は要介護者をポジティブにする
── そうなのですね。みなさんどんな反応をされるのでしょう?
後藤さん:最初は「私の手なんか汚いから触っちゃだめよ」「私なんか派手なのは似合わないわ」と、ネガティブな言葉を口にされる方が少なくありません。でも施術を受けるうちに、認知症の方でも「私、こういうのが好きだった」「この色、よくつけていたのよ」と、昔の記憶がよみがえる方が多いんです。「触ってもらえてうれしかった」「こんなにていねいにしてもらえるなんて」と涙ぐんだり、「私も指先まできれいにしないとね」とウキウキとした表情になったり。
そういう瞬間に立ち会えることにやりがいを感じますし、この世界に入ってよかったなと日々感じます。あるご家族からは「手を見せたがらなかった母が、ネイルをしてもらってから家に帰ってもずっと自慢している。もっと早くやってあげればよかった」と言われ、すごくうれしかったですね。
そんなとき、父や祖父の姿をふと思い出します。ずっとベッドで寝ていると、気持ちが落ちてしまうものです。もしあのときに介護美容を学んで知っていれば、触れることで少しは心がやわらいだかもしれない。一度、祖父の唇がひどく乾燥していたとき、リップクリームを塗ってあげたらすごくうれしそうにしてくれて。その表情は今も忘れられません。これまでの介護経験を活かして、今後は在宅の高齢者を中心に介護美容を届けていきたいと思っているんです。美容の力で暮らしの質を高め、日々を心地よく過ごしていただけるよう寄り添っていきたいです。
取材・文/西尾英子 写真提供/後藤 舞