結婚後、虐待の後遺症で夫に恐怖感を抱くように

── 23歳で実家を出て、ご結婚されたそうですね。

 

丘咲さん:はい。でも、26歳で離婚することになり、元夫との結婚生活は3年ほどしか続きませんでした。おつき合いをしているときは恐怖感を抱くことはなかったのに、結婚して同じ空間で生活を始めたとたん、暴力的な言動で日常的に私を虐待していた父の姿と重なって見えるようになってしまったんです。

 

私は、子どものころから受け続けていた虐待の影響で、40歳をすぎてから複雑性PTSD(心的外傷後ストレス障害:虐待や暴力など長期間にわたるトラウマ体験によって生じ、感情のコントロールや人間関係、自分の価値感覚に深刻な影響を及ぼす障害)と診断されました。そのころに診断されていたら、自分の症状も理解できていたと思うのですが、当時の私には、その認識がありませんでした。

 

16歳のころから精神疾患と脊髄障害とたたかってきた私は、結婚してからもまったく働けない状態だったので、朝、元夫が仕事に出かけたあと、私はひとり家で過ごしていました。夫が帰ってくるのが怖くて、夫がいない間に朝食と夕食を作っておき、食べてもらえるように準備だけして、顔を合わせないようにしていました。朝も、夫が出勤するまで布団の中で息を殺してじっとしているのが日常になっていました。

 

24歳のときに妊娠したのですが、初期のころから脊髄障害が悪化して、それまで以上に激しい痛みに襲われたために、妊娠4か月から出産までずっと入院していました。水腎症(腎臓に水がたまる病気。脇腹や背中の痛みを感じる場合もある)も発症し、ベッドから降りることも許されない入院生活のなかで、身体の痛みに耐えながら出産しました。私も息子も命の危険があると宣告されて、急きょ未熟児での出産となりました。出産後も入院生活はそのまま続き、息子と一緒に退院することもかないませんでした。

 

いっぽう、そのころ元夫は転勤となり東北で勤務していました。私は関東で長期入院を余儀なくされ、ひとりで妊娠中の過酷な状況と向き合うなか、物理的に元夫と離れて生活をしていたこともあり、恐怖心がますます膨らんでいったんです。元夫は決して怖いタイプではなく、むしろ柔和な人でした。でも、私のなかでは父親に見えてしまっていました。今考えれば、絶対そんなことはないのに、そのときはそうとしか思えなかった。1年ほど話し合いを続け、最終的に私が息子と家を出ました。

 

夫には、心から申し訳ないと思っています。私のトラウマに巻き込んでしまいました。こんなにかわいい息子を授けてくれたのに…。しかも、私自身がトラウマの影響だという自覚がまったくなかったので、より申し訳なくて。もちろん、それは、息子に対してもです。