美容の世界に生きてきた私だからできること

── モデル募集に思いがけない反響があったんですね。

 

臼井さん:いっぽうで、有料にしたネイルスクールに申し込んでくれる人は、その後もゼロ。「私が取り組もうとしている障害者向けのネイルスクールは、ちょっと時期尚早なのかもしれない」と、だんだん感じるように。そもそもの話ですが、「なぜ障害者雇用が少ないか」を改めて考えたんです。すると、社会に暮らす一人ひとりが、当事者について知る機会がないのかもしれないと思って。障害者雇用を考える企業の人も、どんな仕事を用意したらいいかわからないのかもしれない、と気づいたんです。

 

だから、障害者でネイリストの技術を持つ人が育っても、企業側からすると接し方や待遇に困ってしまうのかもしれない、それで採用に二の足を踏んでしまうのが現状なんだろう、と。こうした状況を打破するためには、障害者について知ってもらうのがいいのではと考えました。イキイキとした姿を見たら、多くの人も「障害があっても、健常者と何も変わらない」と気づくはず。その「気づき」が、社会の理解が深まる一歩になるかもしれません。だから、障害者モデルという存在を確立して、たくさんの人たちに知ってもらうのはいい方法だと思いました。

 

現在も障害者モデルオーディションを行っている

それに、モデルの仕事は障害者に対しても、いい影響をもたらしてくれました。ホームページの撮影会をしたとき、モデルの方にはきれいにメイクを施してから、カメラに向かってもらいます。すると、みんなが輝くような笑顔になり、自己肯定感がグッと上がったのが目に見えてわかったんです。

 

そこで、事業を「ネイルスクール」から「障害者専門芸能マネジメント事務所」へ、大きく舵をきることに決めました。正直なところ、かなり勢いで行動した部分があります。ただ、思いきって動き出したことで道は開けました。

 

── 臼井さんはそれまで美容の世界で生きてこられました。そのご経歴から考えると、異色の展開だと思います。

 

臼井さん:一般の人は障害者に対して、「助けてあげなくてはいけない弱い人たち」と、考えているかもしれません。決して差別とかではなく、「かわいそうな人」と思っているのではないかと感じるんです。でも、実際は障害当事者の人たちは、美容やおしゃれに興味があって、充実した人生を歩みたいと考える「ふつう」の人たちばかりです。

 

それが伝わらないのは、一般の人と障害者の接点がないからでは?という気がします。「一般の人は一般の人の社会で暮らす、障害者は障害者だけの世界で生きる」と、はっきりと区切られてしまい、お互いのことを知る機会がないように感じるんです。私はこれまで福祉や介護などに携わったことがありません。障害のある人たちとも関わりがなく、美容の世界に生きてきました。でも、だからこそ私にできることがあるんじゃないかなと思います。