障害者は身近にいるかいないかで、その現実の理解に差が出てしまう。でも、本当は健常者と何も変わらない。そんな気づきを得た元ひきこもり女性が障害者専門芸能プロを設立。誰もが自分らしく輝ける未来を築く第一歩を踏み出しました。(全2回中の2回)
わずかな段差が「人生の可能性を閉ざす障壁に」
── 2021年、臼井理絵さんは障害者専門芸能事務所・アクセシビューティーマネジメントを立ち上げました。所属している障害者モデルや俳優たちは、資生堂やユニクロなどの大手企業のCM、大河ドラマにレギュラー出演するなど、大きな話題となっています。臼井さんはなぜ事務所立ち上げを考えたのでしょうか。
臼井さん:それまで私はネイリストとして、自宅でサロン運営をしていました。福祉業界や障害がある人と関わったことはなかったのですが、ひとりの車いすユーザーとの出会いによって、進む道が大きく変わりました。車いすに乗った彼女のことを知り、障害者が就労する際のハードルの高さをまのあたりにしたんです。「私に何かできることはないか」と、考えたのが立ち上げのきっかけでした。
── どんな出会いだったのでしょうか?
臼井さん:「車いすに乗ったネイル大好きな女の子がいるんだけど、会ってみない?」と知人から紹介されたんです。彼女はネイリストとして仕事をしたいと夢見ていたものの、なかなか仕事先が見つからず苦労していました。だから、障害はないものの、すでにネイリストとして働く私の話を聞かせてほしいとのことでした。
彼女はプロのネイリストとして働けるだけの技術をしっかり習得していました。「ぜひ就職してほしい」と、言ってくれる企業もあったそうです。ただ、就職予定の店舗前に小さな段差があり、彼女ひとりでは店内に入れません。企業側としても、ひとりの車いすユーザーのためにバリアフリーに対応したリ、ルールを変えたりするのが難しかったようです。健常者にとっては気にすることもないような段差が、車いすユーザーからすると「人生の可能性を閉ざす大きな障壁」になっていました。
彼女を通して、障害のある人が就労するのはとても難しいことを知りました。そのときに「もしかして就職が難しかったのは、ほかに障害のあるネイリストがいないからかもしれない」と思ったんです。もし、彼女以外にも車いすに乗ったネイリストがたくさんいたら、企業もバリアフリーの対応をして、働きやすい環境に整えてくれたかもしれません。
そこでまずは、障害者のネイリストを育成しようと思いました 。最初に始めたのは、障害者向けのネイルスクールの開設です。当初はボランティアで、ネイルの技術を教え始めました。すると、いろんな当事者の方たちが学びに来てくれました。「もっと本格的なスクールができたら通いたい」と、言ってくれる人も少なくありませんでした。とはいえ、私もだんだん無償で続けるのが難しくなり…。1000円、2000円と少しだけ料金をいただくように変更しました。そのとたん、パタッと誰も来なくなってしまったんです。

── 有料になったとたん、誰も来なくなるのはとてもシビアだと思います。
臼井さん:「なぜだろう」といろんな方にヒアリングをすると、「お金を払ってネイルの技術を学んだら、就職できますか?」と質問されました。でも、「大丈夫、就職できます」とは断言できなくて。障害者のある人は、経済的な問題を抱えている場合が少なくありません。特に障害者を育てる親御さんは、自分たちが亡くなった後の子どもの人生をとても心配されています。将来、「就職できない」「収入を得られない」とわかっているのに、技術を学ぶのにお金をかけるのは難しいようでした。
でも、技術を習得しなければ、企業が求める人材からはほど遠くなっていきます。就職先がないから技術を習得しないのか、技術を習得しないから就職先がないのか…という悪循環は「鶏が先か卵が先か」みたいな話です。
── かなり難しい状況ですね。どのような打開策を考えたのでしょうか。
臼井さん:そのときの私は立ち上げたばかりの障害者向けのネイルスクールを、いろんな人に知ってもらおうと、まずはホームページを作ることに。ちょうどそのころ、バービー人形が新たなラインナップをして車いすや義肢の人形を発売し、話題になっていました。その人形がとてもかわいかったから、実際に障害のある人たちに来てもらって、バービー人形と同じような雰囲気のイメージビジュアルを撮影しようと考えたんです。
SNSでモデルを募集すると、50人以上の方から応募があって。予想以上の反響にとても驚きました。さらにびっくりしたのは募集を締めきった後も、半年くらいひっきりなしに問い合わせがあったことです。