資生堂やユニクロなど大手企業からオファーが!

── 芸能事務所としてスタートして、どんな仕事に取り組んできましたか?

 

臼井さん:最初にオファーがあったのは「資生堂150周年記念CM」の出演でした。そこから明治、ユニクロなど、大手企業に声をかけていただきました。昨年は、大河ドラマ『光る君へ』に所属タレントのDAIKIがレギュラー出演。障害者が大河ドラマにレギュラー出演したのは史上初として注目されました。現在は身体障害、発達障害、知的障害の人たちなど、40人ほどが事務所に所属しています。

 

── 事務所に所属している人たちはどんな思いを抱いている人が多いですか?

 

臼井さん:「障害があっても、人生を輝かせたい」と考えている人ばかりです。誰でもみんな、社会のなかで役割がほしいと思っているし、充実した人生を送りたいと願っているんです。

 

また、「障害について知ってもらいたい」と、強い使命感を抱くモデルも少なくありません。たとえば、所属モデルのなかには、排泄の問題を抱え人工肛門をつけているなど、見た目ではわからない障害を持つ人もいます。彼女は「排泄に関する障害はデリケートだけど、多くの人に知ってもらい、理解を深めたい」と、しっかりとした目的意識を抱いています。私も彼女の目標を共有し、サポートしていきたいと思っています。

 

所属する障害者モデルたち

── 障害者モデルをマネジメントするうえで、意識していることはありますか?

 

臼井さん:私は「配慮はするけれど遠慮はしない」を、モットーとしています。障害のサポートはするけれど、人として対等な立場なのは忘れてはいけないと思っていて。仕事として取り組むからには甘えは厳禁だし、プロとしての意識を持ってもらいたいと考えています。

 

以前、モデルの子に「アクセシビューティーにいると、自分に障害があることを忘れます」と、言われたのがとても印象に残っています。障害の有無ではなく、「あなた自身」を見ているというメッセージが伝わった気がして、とてもうれしかったです。

 

── これまで障害のある人と接したことがないと、何をどう配慮したのかわからない場合があると思います。なぜ臼井さんは、自然に接する意識があるのでしょうか?

 

臼井さん:高校時代、うつ病になって数年間家で引きこもっていたことがあります。その経験がとても大きいです。当時は家から一歩も出られず、進学が決まっていた短大に通うこともできませんでした。「私の人生、どうしてこうなっちゃったんだろう」と大きな挫折を味わい、とてもつらかったです。悲しいことに、周囲の人にはその思いをなかなか理解してもらえませんでした。障害者の当事者たちと出会ってから、「彼らが抱いているのは、あのころの私と同じ気持ちだ」と感じました。だから少しでも力になりたいんです。

 

それに私は長年、美容の仕事に関わってきて、自分の経験や技術が誰かの人生のステップアップにつながることが最高に嬉しい。メイクして喜んだり、自己肯定感が上がったりする姿を見ると、やりがいを感じます。今後は障害の有無にかかわらず、誰もが自分らしく輝ける未来を築きたいと願っています。障害者モデルという存在を確立させ、多くの人に「障害があってもみんな一緒」と伝えたいです。

 

そして、今年は念願だった完全バリアフリーのサロンも立ち上げました。ネイルやホワイトニングの施術ができ、ネイリストは補聴器ユーザーです。夢への実現のため、一歩ずつ確実に歩んでいます。

 

取材・文/齋田多恵 写真提供/臼井理絵