「誰もしーちゃんのことなんて見ていない」

── デビューしてからの活動はどうでしたか?
大家さん:決して順調ではありませんでした。握手会をしてもほかのメンバーには行列ができているのに、私の列には1〜2人しかいないこともありました。でもその少ないファンの方たちが、列を途切らせないようにと、何度も走ってきてはずっと私の列に並んでくれていて。「そういう方たちにいつか絶対に恩返しする!」という強い気持ちで活動を続けていましたね。
実は音楽番組の『ミュージックステーション』にAKB48の正規メンバー48人全員の出演が決まったことがありました。メンバーの私はもちろん出られると大喜びしていたのですが、注目度の高い研究生を出したかったのか、正規メンバーの3人がはずされることに。そのはずされたメンバーのうちのひとりが私でした。そのときはかなり落ち込みましたし、もう腐っていましたね。
── それでも続けてこられたのはなぜでしょうか?
大家さん:ファンの方々の力と、あと、メンタルを保つ方法を見つけたことが大きいですね。
デビューしてしばらくして、ある出来事がありました。劇場でのライブ前に新曲のMVを確認していたのですが、そこにはハワイでキラキラ輝いている指原莉乃ちゃんなど、仲のいいメンバーが映っていて。それを見ていたら「どうして私はそこにいないのだろう」と落ち込んでしまったんです。ライブ前にもかかわらず大泣きして、「こんな姿、誰にも見られたくない、ライブには出たくない」と言ってしまったんです。
するとその場にいたメンバーのひとりが私の気持ちを楽にさせようと、「誰もしーちゃん(大家さん)のことなんて見ていないから大丈夫だよ」と。それを聞いて「たしかにそうかもしれない」とハッと我に返りました。気を使ったなぐさめの言葉を言われるよりも、すごく心に刺さって、そして思わず笑ってしまったんです。そこからは「誰も見ていないなら深く考えすぎずに、好きにすればいいや」と物事をポジティブに、楽観的に考えられるようになりました。
落ち込むのは、私自身が私への期待値が高いからなわけです。もともとできるわけがないと思うことで、努力は続けますがメンタルを守りながらモチベーションを維持できるようになっていきました。
── なかなか強烈なひと言でしたね。
大家さん:でも彼女は、嫌味ではなく、私の気持ちを楽にさせようと、私のこの性格も踏まえながら「愛のある言葉」として言ってくれたんですよね。
冷静になってよく考えてみれば、私はアイドルになりたかったわけではなく、お笑いが大好きで、AKB48のオーディションでもバラエティ番組に出演したいと言っていたんです。オーディションを受けたのも、AKB48のライブを観に行ったときに、たまたま知り合いに受けないかと誘われたのがきっかけでした。なのでそれからは、正統派のアイドルではなく、トークも頑張ってみようかなと思えるようになりました。おかげで歌やダンスの出番はないライブに、MCとして呼ばれることが増えてきてうれしかったですね。アイドルじゃなくても居場所があることが大事なんだと気づき、自分の方向性が見えてきた気がしました。
ほかにも仲間から「体重の増減を繰り返してそれをオープンに話せるのもしーちゃんの才能だ」と言われて、それもひとつの武器になったと思います。アイドル時代に体質的に太ったりやせたりすることを何回も繰り返していて。AKB在籍中も10キロ以上、卒業後は最大20キロ増加して72キロまで体重が増えたことがありました。アイドルらしくないかもしれませんが、ダイエットで体重の増減を繰り返す等身大の自分を赤裸々に発信するようになりました。そのおかげで、マラソンのお仕事をいただいたり、グラビアのお仕事をいただいたりしましたから。