亡くなって6年「まだ乗り越えた」とは言えないけど

── 親方が亡くなってこの6年は佐野さんにとってどんな時間だったでしょうか。

 

佐野さん:親方がなくなった直後にコロナ禍に突入してしまったこともあって、気持ち的に厳しい部分はありました。なかなか前向きになれなかったですし、お世話になった方々にご挨拶もできなくて歯がゆい思いがありました。

 

親方が亡くなった後、私は娘と実家のある大阪に戻ってきたんですが、ふとした瞬間に、「親方や力士たちと東京にいるはずだったのに…」と思い出してしまい、娘と2人っきりでいることに猛烈な寂しさを感じることが何度もありました。軽くうつ病のような状態になっていたと思います。

 

ただ、娘が小学1年生になったころから以前のように交流もできるようになり、部屋の関係者の方々や応援してくださっている方とかにお会いするうちに気持ちも少しずつ整理できてきて。まだ乗り越えたとまでは言えませんが、受け入れられるようにはなりました。親方の死は受け入れなければいけない現実で、前向きに生きていこうと思えるようになったのはここ2年ぐらいだと思います。

 

── 今後、佐野さんご自身は人生をどのように歩んでいきたいですか。

 

佐野さん:世の中には私のように若くして夫や妻などパートナーを亡くした方、シングルマザーやシングルファザーがたくさんいると思います。

 

実は数か月前に「グリーフケア」という死別経験者の心のケアをするオンラインサロンを立ち上げたんです。何か特別なことをするというわけではないのですが、週に1回、私の気持ちをメルマガで配信していて。死別の苦しさ、悲しさを打ち明けられる、集える場所を提供したいと作ったものなんです。そういった方々の救いになれたらと思っています。

 

私がこの6年で気づいたのは家族の死を乗り越えようと思うからしんどいということ。悲しみはきっと永遠になくならないもの。だから乗り越えることは諦めました。乗り越えはしないけど、悲しみと共存しながらいかに前向きに生きていくか、そう考えることにしたんです。そうすることで私自身は気持ちが楽になりました。

 

取材・文/石井宏美 写真提供/佐野真充