やりがいはもうすべてだった
── おかみとしてご苦労もあったかと思います。うれしかったことや、やりがいを感じたのはどんな瞬間でしたか。
佐野さん:おかみをしているときは、親方のスケジュール管理や部屋の広報、ご近所とのおつき合い、お礼状の送付や番付発表の際は後援者の方への郵送、部屋の経理などの煩雑な事務仕事から、弟子の世話、ときには弟子たちの病院へのつき合いに至るまで、いろいろな仕事がありました。部屋を長い時間空けることができず大変だったんですが、親方が2018年から闘病生活に入り、2019年に41歳の若さで亡くなった後、2021年に部屋を畳むことになりました。その後は関東を離れて実家のある関西に戻ったんですが、今はあのころ過ごした時間がすべて貴重だと思えるというか…。やりがいはもうすべてだったと思います。
── おかみ時代の経験が今に繋がっていると感じることはありますか。
佐野さん:あのころ経験したことはすべてが今に繋がっていると感じています。今はシングルマザーとして娘を育てていますが、おかみ時代に精神的にかなり鍛えられたので、今、どんなことが起きてもあのころよりも楽に感じるんです。親方の闘病中は看病をしながら、力士たちも見ながら、さらに娘が生まれて本当に大変だったので。それと比べたら、どんなことがあっても頑張れるという気持ちです。
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本場所中の15日間は昼間から相撲中継を見て、弟子たちの相撲に一喜一憂し、親方の送迎や弟子たちの病院へのつき添いなど、おかみとして煩雑な事務仕事などで多忙な生活を送っていた佐野さんでしたが、親方が血管肉腫のため41歳の若さで逝去。亡くなってから6年が経ちました。悲しみに暮れながらも夫の死と向き合い続けたことで、ようやく「親方の死は受け入れなければいけない現実で、前向きに生きていこう」と、思えるようになったそうです。
取材・文/石井宏美 写真提供/佐野真充