まさかの受賞「毎日つぶやき続けた思い」が原動力

── 絵本作家への道がひらけてきた実感はありましたか? 

 

みやもとさん:その後も、絵本のコンテストには応募を続け、毎年のように何らかの賞をもらえるようになりました。そして、59歳のとき、講談社絵本新人賞を受賞しました。大きな賞だったので、まさか受賞するとは思っていなくて、web上で通知される一次と二次の選考結果も見ていなかったんです。最終選考の知らせが速達できて、初めて自分の作品が候補に残っていることを知りました。それから10日ほど経ち、知らない電話番号から「受賞」の連絡がきて、驚きました。

 

その日は偶然ちょっとした集まりがある日で、浴びるほどビールを飲みましたね。妻や塾仲間に知らせると喜んでくれたのもうれしかった。その後、1年ほどかけて細部の調整などをして、受賞作の『あおくんふくちゃん』を刊行。60歳で念願の絵本作家デビューを果たせました。物語は青鬼の「あおくん」と福の神の「ふくちゃん」が、節分の日に「交代」するお話。衣装や髪型や化粧など変えて、立場を変えたらどうなるか?というコメディタッチの内容です。なぜだか昔から「鬼」に関する話が好きでしたね。

 

── 40代半ばからの本格的な挑戦。振り返ってみて、挫折を感じたり、「才能ないのかも」と、思ったりしたことはなかったのでしょうか? 

 

みやもとさん:45歳のときに本格的に絵本作家を目指し、受賞までの約14、15年間。自信を失ったり、「絵本作家になれるんかな」と葛藤したりしたこともありました。ただ、完全に絵本の創作をあきらめてしまうことはなかったですね。絵本作家になれるなら何歳でもかまへん、と。神戸の塾では、周囲の絵のうまさにびっくりして気後れしたこともあったけれど、先にも述べましたが、逆に高いレベルの仲間の存在が刺激になって力がわきました。

 

天然な性格も関係しているかもしれませんが、どこかでずっと自分を信じていたんでしょう。さらに言えば、きっと絵本作家になれると自分に言い聞かせてもいました。いま振り返って言えることなんですが、毎朝起きて体操をしながら、「自分は(絵本作家に)なれる」と心の中でつぶやく日々でしたね。無意識なつぶやきが習慣になっていき、不思議と気持ちも折れなかった。諦める意識がなくなっていくんでしょうか。言霊みたいなもので、これならいつからでも、誰でもできることだと思いますよ。

 

── 今後、どういった絵本作家を目指していますか? 

 

みやもとさん:「自分がおもしろいものができればいいな」程度ですね。ただ、絵本作家を目指すと決めたとき、なぜなのかは理屈では説明できませんが、世界で翻訳される作品を作りたいと思いました。まだ入り口に立っただけなので、そこは目指したいです。自分の作品が世界のさまざまなところで読まれたら本望です。

 

取材・文/西村智宏 写真提供/みやもとかずあき