声帯炎がきっかけでなぜか英検1級に合格

佐々木望
アニメコンベンションWeebCon INDY(米インディアナポリス州・2025年)にて

── 1986年に放送されたアニメ『ドテラマン』で声優デビューして以降、90年代には『幽☆遊☆白書』『キャプテン翼J』『ゲンジ通信あげだま』『ガンバリスト!駿』など、当時子どもたちに大人気だった作品に次々と出演されます。そんな順調にキャリアを積んでいた最中に、東大受験を決意するに至るきっかけがあったそうですね。


 
佐々木さん:
はい。声帯を傷めてしまったことがきっかけでした。30歳を過ぎたころ、声帯炎をこじらせて、仕事に支障をきたすようになってしまったんです。当時の私の発声のしかたは、声帯に負担がかかるものでした。デビューが早かったこともあって訓練を十分に積んでおらず、自己流で発声していたんですね。「声優のお仕事を長く続けたい。そのためには自分のやり方をここで根本的に変えないといけない」と思って、発声と演技を基礎から学び直すことにしました。

 

子どものころから、興味のあることを調べることは苦にならないので、日本語だけでなく、英語の文献や資料も読みあさりました。レッスンやトレーニングにも通って、声や演技について徹底的に勉強しました。

 

たくさんの英語の文献に触れたことで、声が回復して心に余裕が出てくると、もっと英語を勉強したいという意欲がわいてきました。もともと英語は好きでしたし、せっかく勉強するなら何か指針があったほうがいいだろうと、英検(実用英語技能検定)1級を目指すことにしたんです。

 

── どうやって勉強を?学校に通ったりはされたのですか。

 

佐々木さん:学校には通いませんでした。でも独学派というほどカッコよくないんです。子どものころから座って人の話を聞くのが苦手で。ついほかのことをずっと空想してしまって、頭に入らないんです。仕事の時間も不規則ですしね。ですから、勉強のスケジュールをきっちり決めることができなくて、空き時間や家に帰ってから勉強しました。最初は文法書をガリガリやりました。英検はとくに2次試験のスピーチ対策が大変でしたね。でも、英検に合格するのが目標というよりは、好きな英語を勉強する途中に英検を受けてみたという気持ちでした。長丁場の勉強は、好きじゃないと難しいですよね。

 

大人になってからの勉強って、もし「いつまでに受からなきゃいけない」という事情がなければ、ゆったりじっくりできるのがいいですよね。何回でも受けられるなら、受かるまで受けるという手もありますし。

 

── 好きなことを勉強するというのは、本来そういうことですよね。英検1級の試験には、何度か挑戦されたのですか。

 

佐々木さん:運よく1回で受かりました。英検1級を取得したあとは、全国通訳案内士試験を受験して合格しました。まだまだ英語の勉強がしたいなと思っていたらふと、「大学へ行こうかな」と思い浮かびました。アカデミックなところでちゃんと勉強するのもいいな、と。

 

その少し前のことなのですが、ボストンの語学学校に2、3週間の短期留学をしたことがあります。ホームステイ先のホストマザーは私と同世代だったのですが、「数年前に仕事を辞めて大学へ行き直した」という話をしてくれて。「そんなことができるんだ」と心に残っていました。