無謀だとも思える挑戦だったが
── それで、東大を受験しようと?
佐々木さん:すぐにそう思ったわけではないんです。小説家の池澤夏樹さんの講演会を学習院大学に聴きに行ったことがあるのですが、そのときたまたま公開講座の案内を目にして、英語のクラスに通ってみました。そのあとも、各所の公開講座などで英語やアメリカ演劇のプログラムを受講しました。そのとき、大学のキャンパスで学ぶって楽しいな、と思って「いっそ大学に通おう」と。
ただ、仕事をしながら大学に通うには、キャンパスが都内にある大学でないと難しい。そう思っていろいろ調べてみると、国立大学を受験するにはセンター試験で英語以外の科目も受ける必要があることがわかりました。当初は大学でアカデミックな英語を学ぼうと思っていたのですが、センター試験のためにほかの科目も勉強しなければいけないのなら、大学で学ぶことは英語に限定しなくてもいいのではと思うようになったんです。
それなら、総合大学がいいのかもしれない。都内にある国立の総合大学といえば東京大学。「せっかく行くのなら、東大に行きたい」と思いました。といっても、仕事を中断するつもりはまったくありませんでしたから、それで受験は無謀だとは思いましたけれど。でも、私の場合は「いつまでに合格しないといけない」ということはないのだから、受かるまで何度も受ければいいやと。そう思って、東大受験を決めました。大人になってから学ぶことには、自分の仕事や生活に合わせて計画できるというメリットもありますね。
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40代半ば、声優の仕事も忙しいなかで東大受験を決意し、見事合格した佐々木さん。2年に満たない独学の受験勉強で見事合格し、7年間かけて東京大学法学部を卒業しました。大学では、尊敬できる教授や友人との出会いがあり、大人が勉強する楽しさを満喫されたそうです。
取材・文/林優子 写真提供/佐々木望・インスパイア