ロンドン滞在時に気づいた「歌への思い」
── ロンドンで過ごした4か月は、小柳さんにとって、どんな時間だったのでしょう?
小柳さん:心を解放することができた時間だったと思います。目的もなく街をブラブラ歩いたり、時間を気にせず過ごしたり。ダンス教室や語学学校にも通ってみたりしましたが、積極的に何かを学びたいというよりは、ただ知らない環境に身を置いて、音楽から離れた生活をしてみたかったんです。
それまでは日常のなかに音楽があるのが当たり前で、歌わない日はないくらいでした。でも、いつしか歌に向き合うことがしんどくなって、仕事以外ではいっさい歌わなくなっていて。音楽を聴くときも、できるだけ歌の入っていないクラブミュージックなどを選んでいました。

ところが、ロンドンで音楽から離れて過ごすうちに、気づけば毎日、キーボードを弾きながら歌を歌っていたんです。「あれ?私、毎日歌えてる!」と、自分でも驚くくらい自然に。胸の奥底から「ああ、やっぱり私、歌が好きなんだ」という思いが沸き上がって、「また、昔みたいに歌えるかもしれない」と思えてきたんです。原点に立ち戻った瞬間でした。
── 「たりない自分をつくろうために武装していた」ということでしたが、その気持ちが解放されたのはいつごろからでしょう?
小柳さん:殻を破るきっかけになったのは、デビューから8年経った2007年に制作した7枚目のアルバム『SUNRISE』です。楽曲を聴いたとき、心の奥底が強く揺さぶられる感覚がありました。それまでの私は、「小柳ゆきはこうあるべき」とイメージを型にはめ、自分の見られ方を意識する気持ちが強かったんです。
でも、なぜかそのときは、答えの出ないぐちゃぐちゃな感情をそのままぶつけてみたくなって。結果的に荒削りでも、偽りのない「ありのままの自分」を表現でき、心が軽くなったんです。鎧を脱いだことで、自分の弱さやパーソナルな部分を見せることが怖くなくなり、いろんなことに挑戦や実験的なことも楽しめるようになった。「自分をさらけ出すことは、強さでもあるんだ」と知りました。