白か黒かではなく「グレーを楽しめるように」

── さまざまな葛藤を経て、音楽と向き合ってこられたのですね。昨年でキャリアは25年になりますが、ご自身のなかで、変わってきたこと、変わらずに持ち続けているものは、どんなことでしょうか。

 

小柳さん:いまも変わらないのは、自分にとって楽しいこと、ワクワクする方向に進み続けていることですね。歌を聴いてくださるみなさんや、支えてくれる人たちのおかげで、音楽に没頭してこられたことに幸せを感じています。

 

いっぽうで、ものの見方はずいぶん変わりました。昔は「0か100か」で判断して、「違う」と感じたら思考を遮断してしまうことが多かったんです。でも、40代を超えたあたりから「グレーがあってもいいよね」と思えるようになって。白黒では割りきれないもののなかに、優しさや余白があって、そこからみつかるものも多いかも、と気づきました。

 

たとえば、自分のなかでしっくりこないことを提案されたとき、「NO」と即答するのではなく、一度受け止めて、思いを巡らせてみる。すると提案のなかにも、これまでにない魅力や可能性が見つかることがあるんです。そんな宝探しのような時間を、いまは楽しめるようになりました。だからこそ、相手の言葉の奥にあるものをていねいに聞き取るようにしています。

 

── 素敵な「宝探し」ですね。

 

小柳さん:今年はデビュー25周年の新たな挑戦として、オーケストラとの共演のアルバムをリリースし、ライブツアーを行っています。オーケストラで歌うと、音の波に包まれて押し出されるようなパワーを感じ、ふだんのライブとはまた違った感覚があるんです。きっと聴いてくださる方にも、新しい魅力を届けられるんじゃないかと思っています。

 

40代になり、人生の折り返し地点を迎えました。周りを見渡すと、60代、70代になっても精力的に音楽活動を続けている素敵な先輩方がたくさんいらっしゃいます。年齢を重ねることが、表現の深みにもつながっているように感じて、すごく刺激になりますね。私も自分自身としっかり向き合いながら、音楽を続けていきたいです。

 

 

華やかなキャリアの裏で、プロとしての現実と理想のギャップに苦しんだ小柳さん。仕事から逃げるようにロンドンへ旅立ち、音楽への純粋な思いを再発見します。自分を守るための「鎧」を脱ぎ捨て、ありのままを表現することで新たな世界が広がりました。そんな小柳さん、プライベートではかなりの人見知り。40代を迎えた今は、ひとりで過ごす「ぼっち時間」を大切にしているそうです。

 

取材・文/西尾英子 写真提供/小柳ゆき