「マニキュアに笑顔」認知症でもおしゃれは大事
── 元気にさせる方法とはどんなことでしょうか?
山田さん:デイサービスに行くときハンドバッグを持たせていました。あるとき中を見たら口紅が3本入っていました。それがけっこういいブランドのもので。これまで母が「お化粧好き」とは知らなかったのですが、デイサービスに行くときに喜ぶかと思い、口紅を塗ってあげました。
するとスタッフさんから「あら、口紅きれい」とほめてもらい、母はご機嫌に。それから毎日塗るようになったのですが、あるときスタッフさんが「口紅もいいけど、お化粧は自分で鏡を見ないとわからないでしょう?マニキュアを塗ってあげたら、うれしいと思いますよ」と、提案してくれました。
たしかに、手元がきれいなら自分でもすぐわかるし、心が浮き立つんですよ。それ以来、マニキュアを塗ってあげるようにしました。母は満足そうに手を眺めていましたね。認知症になっても、おしゃれって大事なんだなと思いました。
── ちょっとしたことでも、スタッフと気づいたことを共有し合えるのは、とてもしっかりした信頼関係があったからだと感じます。
山田さん:本当にそのとおりです。困ったことは相談したし、スタッフさんも介護中に気づいたことを、なんでも伝えてくれました。もともと母は、デイサービスに行きたがりませんでした。自分が「認知症と思われたくない」「施設に預けられたくない」というプライドがあったのでしょう。でも、自力では入浴ができないから、デイサービスでお風呂に入れてもらわないとお尻がかぶれてしまう。
だから何十軒も回って、母に合う施設を探しました。どの施設のスタッフさんもみんないい人でしたが、やっぱり人と人とのつき合いだから、相性があるんですよ。当時はコロナ前で、見学のときにつき添いも可能でした。だから一緒に見学に行って工作をしたり、金魚すくいゲームをしたり、射的大会などを楽しみました。「この施設は楽しそうだな」と感じたようで、ようやく通ってもらえるようになりました。
スタッフさんには本当にお世話になりました。母が認知症になってから、いろんな人に見守ってもらえているんだな、と感じる機会が増えたんです。以前は近所づき合いもほとんどありませんでしたが、母が認知症になってから、ご近所の人たちも気にかけてくれるようになりました。そっと見守ってくれていると実感することが多かったです。