認知症をあわれんでも、ネガティブになるだけ。だったらポジティブに介護したい。口でいうのは簡単ですが、タレントの山田雅人さんは母を支えるスタッフさんと共に楽しむ精神で挑みました。介護に「後悔はない」と言いきった、8年間の日々を聞きました。(全4回中の3回)
入浴を拒む母にうった「ひと芝居」
── 2015年、お母さんが認知症と診断されてから、タレントの山田雅人さんは本格的に介護に向き合ったと伺いました。当時はどんな生活を送っていましたか?
山田さん:もともと僕は、火曜日に大阪でラジオの生番組を担当していました。介護をするようになってからは、日曜日の夜や月曜日の朝に大阪に行き、月曜日は母のめんどうを見て、翌日はラジオ番組が始まる前に母をデイサービス(介護が必要な人を日中預かり、リハビリや身の回りの世話をしてくれる施設のこと)に預け、ラジオが終わったらデイサービスまで迎えに行きます。
水曜日は母のめんどうを見て、木曜日の朝、ショートステイ(介護認定された人などを短期間宿泊して預けること)に預けてから僕は東京に戻りました。週に3~4日は大阪で過ごし、それ以外は東京で暮らす日々でした。母のことをお願いしていたデイサービスのスタッフさんたちは「介護のチームメイト」のような感覚でした。一緒に見守り、協力してもらえたからこそ、僕は母の介護をまっとうできたと思います。
── デイサービスのスタッフさんにはどんなことを協力してもらいましたか?
山田さん:そもそも母がデイサービスに通うようになったのは、ひとりで入浴するのが難しくなったからです。デイサービスで入浴するようお願いしたんです。そうしたら介護士の方が介助してくれますから。でも、知らない場所で母は入浴したがりませんでした。そこで、デイサービスのスタッフさんと相談し、ひと芝居うつことにしたんです。

「お風呂なんて入りたくない」と言う母の前で、僕が「じゃあ先に入らせてもらうわ~」とお風呂に入るふりをするんです。15分くらい浴室に入って、髪の毛を濡らして「ここのお風呂最高だわ、温泉ちゃうか?気持ちいいから、母さんも入ってみたら?」なんて演技をすると、母も興味をそそられるようで。知らない人から「お風呂に入りましょう」と言われても抵抗するけれど、息子から勧められたら「じゃあ、私も入る」と気持ちが動かされたようです。
僕だけだったらこういう作戦は思いつかなかったし、スタッフさんだけでも母を入浴させる気持ちにさせられなかったように思います。一緒に「どうしたらいいか?」を考えたからこそ、僕が演技するというアイデアが浮かんだんです。母をその気にさせるためにいろんな工夫をするうちに、だんだん楽しくなってくるんですね。僕は役者でもあるから、演技の研究にもなります。スタッフさんたちは、母のことをとてもよく見てくれました。こまやかなアドバイスのおかげで、母を元気にさせる方法にも気づくことができました。