モデルとして活躍していた林マヤさんは、夫婦で茨城に移住を決め家庭菜園を始めました。自然と向き合う生活をしているうちに「あまり怒ることがなくなった」そうです。(全3回中の2回)
夫婦合わせて100歳の年に移住を決意
── 1980年代にファッションモデルとして世界を舞台に活躍され、その後タレントとして日本のテレビやラジオ番組などに出演されていました。東京での仕事が多かったと思いますが、2009年から夫婦で茨城に移住したそうですね。きっかけはなんでしたか。
マヤさん:モデル時代に太るのが怖くて食べられず、アルコールに依存していた私を心配して、週末になるとダーリンが茨城に通って、自分で育てた野菜を持ち帰って来てくれていました。

モデルとして生き残るためにやせようとした結果、食べ物を受けつけなくなり、ガリガリでメンタルまで落ちてしまっていて。そんな私が自分を少しずつ取り戻せたのはダーリンが育てた野菜のおかげでした。ダーリンが育てていた野菜は今まで見たこともないような変わったものばかりで、見た目がかわいくて、味もおいしい。野菜なので罪悪感なく食べられたのもよかったんだと思います。でも、ダーリンの東京での仕事がだんだん忙しくなって通うのが難しくなってしまって。ちょうどそのころ、私の体調が戻り始めていた時期でもありました。
第二の人生という言葉があるけれど、このタイミングで人生を再スタートさせたいという気持ちになっていたんです。それに、私も野菜作りをしてみたくなった。それならもう、思いきって茨城に移住して、ふたりで腰を据えて野菜作りをしようと。ちょうど私もダーリンも50歳のときで、ふたりの年齢をたしたら100歳。新しいことを始めるのにピッタリでしたね。
── 第二の人生という言葉は老後に使う方が多いイメージがありますが、少し早めにスタートさせたんですね。
マヤさん:もし「いつかこういうことをしてみたい」という思いがある方がいれば、行動するのは若ければ若い方がいいと思います。移住してみて実感しているのは、現実的に何をするにも体力が必要だということ。畑仕事はもちろん、地方で暮らすとなれば、交通の便が悪いこともあって、実際、うちからいちばん近いスーパーまで歩いて往復で45分はかかります。私は車を運転しないので、歩かないと買い物に行けないんです。何をするにも体力がいるので、何か始めたいという気持ちがあるなら、早いうちにまず現地に行ってみて、本当に自分に合うか確かめてみるのがいいと思います。
── 移住はスムーズでしたか?
マヤさん:まずふたりで、何のアポも取らず茨城にプラッと行ってみたんです。歩いていたら、庭が100平米くらいある空き家を見つけました。それを見た瞬間「ここを家庭菜園にしたらいいじゃん!」って。近くの不動産屋さんで聞いてみたら「それ、うちの物件です」と。そのまますぐに部屋を見せてもらって、もうそこで即決しちゃった。ものすごいボロ屋で、ネズミが廊下を歩いているような家だったのですが、家賃が安くて何より自分の庭で野菜作りができるのがいいなと思ってね。
── 家庭菜園を目的に移住されたわけですが、野菜作りは順調でしたか。
マヤさん:あまりお金もなく引っ越したので、農業用の機械は買えなかったんです。なので、夫婦ふたりぶんのクワを買って、コンクリートのように硬くなってしまっている地面を耕すことから始めました。耕すだけで手に豆がたくさんできてしまうほどでしたよ。
最初は、種を蒔く時期などもわからないまま、独学で始めたのですが、虫がたくさんついてしまって全滅したり、ようやくトマトができてきたと思ったら台風で倒れてしまったり。失敗だらけの毎日でしたが、そんななかでも生き残ってくれる野菜があるんです。そういった野菜は、形が不細工でも、味が濃くてとってもおいしい。自分で育てた野菜の味は格別で、野菜の生命力からたくさん元気をもらいました。
「自然を前にしたら…」移住で性格にも変化が
── 移住してご自身が変わったと思うことはありますか。
マヤさん:こちらにきて野菜作りを始めてからあまり怒らなくなりました。天気に関してはどんなに心配しても仕方がないんです。雨ならば畑の畝にカバーをかぶせるなど、最低限のことはするのですが、実際どれだけひどい雨になるかはわからないし、かんかん照りが続いてしまうような日もあるかもしれない。自然を前にしたら人間にできることはほとんどなくて、もがいても仕方ないと腹をくくれるようになりました。
うちの夫婦は、生きてきた過程が似ていて。ダーリンはつっぱりの不良だったんですけど、私もスケバンで。昔は夫婦ともにキレやすいところがあったんです。ケンカになったらふたりとも口が悪いし、口だけじゃ済まなくて、取っ組み合いになることもありました。近所の方が通報して警察が2回来たことまであったんですよ。

── どんなことでケンカになるのですか。
マヤさん:トイレのドアの閉め方が悪いとか、本当にささいなこと。ケンカするたびに「結婚しなきゃよかった!」なんて言っていたんですけど、やっぱり私には彼しかいなかったし、ダーリンもそう思ってくれていたと思うんです。うちは夫婦というより、同志という感じかな。ダーリンが家を出ていっちゃったこともあったけど、コンビニでしばらく時間を潰してしばらくしたら戻ってくるんですよ。私も謝るのが嫌で、手紙を書いてね。
── 仲直りのきっかけが手紙ってかわいいですね。
マヤさん:かわいくない、ダサいよ〜!口で言うのが恥ずかしいと言うのが本当のところ。シャイなんです。ひとりになって冷静に考えてみると「あれ、ケンカの原因ってマヤマヤだった?」となることも多くて。でもすぐに謝るのもしゃくだから、手紙は渡すのではなく、玄関に置いておこうかとかね。
こんなにケンカばかりだった私たちが、野菜作りを始めてからすごく変わったんです。人には文句を言えるけど、野菜に言ってもどうにもならないでしょう。黙っているだけの野菜からたくさんのことを教えてもらっているなって。不良出身の私たちだからそもそも人から何か言われるのは頭に来るしね(笑)。どんなに悪天候でもとにかく踏ん張って、頑張って生き残ってくれる野菜の力強さをみたら「すごいなぁ」と尊敬します。野菜の花は小さいものが多いのですが、健気に花を咲かせる姿もかわいくてね。