30年間寝たきりの男性から伝えられたこと

── リハビリを続けながら、筋ジストロフィーを患っている人のコミュニティーを立ち上げたそうですね。それも「先生を見返す」ためのチャレンジのひとつだったのでしょうか。
小澤さん:そうです。リハビリに取り組むなかで「同じ病気の人と話してみたい」という思いを抱くようになり、ブログのコミュニティー機能を使って、募集してみました。すると、筋ジストロフィーを患っている当事者やその家族など、100人以上の人が集まったんです。それまでは、私と同じ病気の人と出会ったことがなかったのですが、その人数を見て、「私はひとりぼっちじゃないんだ」と思うことができました。コミュニティーでは、同じ病気の人同士が励ましあったり、情報交換をしたりしていました。
また、そのコミュニティーのなかで、筋ジストロフィーと向き合いながら、作詞作曲の活動をしている松尾栄次さんと出会いました。松尾さんとの出会いも、私の人生に大きく影響したと感じています。
── 松尾さんとはどのようなやり取りを?
小澤さん:松尾さんは30年間、寝たきりで入院生活をしているという方でした。そのころの私は、「寝たきり」という状態にいいイメージはなくて、「松尾さんも、今の状態に絶望しているんだろうな」と考えていたんです。でも当の本人は「やりたいことがありすぎて時間がたりないよ。秘書がほしいくらい」と言ったんです。松尾さんは、動かすことができる指先を使ってPC上で曲を制作し、作った歌をさまざまな人に届ける活動をしていました。松尾さんの活動と思いに触れ、私のなかの「寝たきり」と「障がい」の概念が覆りました。
そのうち、松尾さんとはSNSで個人的にやり取りするようになったのですが、私が高校時代にバンドを組んで歌っていたことを話したら、「僕が作った歌を同じ病気のあなたに歌ってほしい」と言ってくれて。すごくうれしかったですね。ただ、当時の私は、就職したばかりで忙しく「いつか実現できたらいいな」と思っていました。
しかし、その2か月後、私の元に届いたのは松尾さんの訃報。「いつか」ではなく、「今」やるべきだった…。私は激しく後悔し、「やりたいことは、すぐに挑戦しよう」と考えるようになりました。
── その後、すぐに歌の活動を始めたのですか?
小澤さん:はい。クラウドファンディングを使って資金を募り、松尾さんの曲でCDを作って人前に立って歌うことを始めました。松尾さんとの出会いがなければ、今のような歌手活動にはつながらなかったと感じています。