気になるけれど、面と向かって聞きにくいこと

── 今まででいちばん反響があったのは、どのような投稿ですか?
渋谷さん:最初に、排泄障害についての投稿がバズりました。私の場合は、尿や便が溜まる感覚がなく、意識的に出すこともできないので、普段どうやって排泄を管理して処理をしているかをお話ししました。実際に使用している薬やケアグッズの実物を見せながら説明しています。
感覚がないから、どうしても漏らしてしまうことがあって、困っている当事者の人は多いだろうなと思っていました。私も、歩けないことよりも漏らしてしまうことのほうがめちゃくちゃつらいです。トイレの不安があると出かけても楽しめなくて、そのせいで出かけたくなくなってしまう。看護師さんに相談しても、当事者でないと理解できないことがあります。だから「当事者が伝えていかないと」と思って。
── どのような反響がありましたか。
渋谷さん:なかには「知られたくない」という当事者の方もいましたけれど、好意的な感想がほとんどでした。当事者の人だけではなくて、医療従事者の人たちからも、「入院中のことしかわからないから、外へ出たときのことを知ることができてありがたい」と言ってもらえます。
排泄障害については「知らなかった」「初めて知りました」という人が断然、多かったので、発信してよかったです。もし漏らしてしまったとしても、何も知らない人の前と、知ってくれている人の前では全然、気持ちが違うと思うんです。
歩ける人のなかにも排泄障害を持っている人はいますし、年配の方やお腹が弱い方からも、「出先にトイレがないと不安」という声をもらいました。当事者が声を上げていくことが、「車いすで使用できるトイレがたりない」といった問題の解決につながるんじゃないかなと思います。
── 性のことについても発信されていますね。
渋谷さん:セカンドバージン卒業の動画もすごい反響でした。たくさんの人に見てもらって、新聞や雑誌にも取り上げてもらいました。
私も、下半身まひになってから「性行為ができるのか」という不安をずっと抱えていました。私の場合は、それができないと、恋愛や結婚にも前向きになれなかったんです。たまたま出会いがあって性行為をする機会があったので、そのときに感じたことをお話ししました。できるだけ下ネタトークにならないように気をつけて発信したので、みなさん真剣に受け止めてくれました。
パートナーがいる当事者の女性が「怖くてしたことがなかったけれど、動画を見てチャレンジしてみようと思えた」と言ってくれたり、脊髄損傷の彼女がいる男性から「してもいいのか気になっていたけれど、彼女に聞きたくても聞けなくてモヤモヤしていた。彼女と一緒に動画を見ます」というコメントをもらったり、当事者の人たちに「できるんだ」と感じてもらえたのはすごくよかったです。
排泄や性のことって、気になるけれど発信している人が少なくて、面と向かっては聞きにくいですよね。男性と女性でも違いますし、もちろん個人差もあるし。だからこそ、当事者としてできる限り声に出していければいいなと思っています。
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排泄や性のことを含めて、車いすでのリアルな生活を発信するYouTubeチャンネルは、登録者数が12万人以上の渋谷さん。車いすでは不可能と思われることに精力的にチャレンジしています。海外にも何度も足を運ぶなかで、日本では車いすの人が「生きていくために必要なこと」に関しては、行政や企業がとてもがんばってくれていると感じているそう。一方で、車いすの人が「人生を楽しむ」というニーズにはあまり目を向けられていないと話します。
取材・文/林優子 写真提供/渋谷真子