山形県の山あいにある実家で、茅葺き職人を目指していた渋谷真子さん。仕事中に屋根から落下する事故で脊髄を損傷し、下半身まひに。当時、現場で一緒に働いていた父は「ごめんな」と何度も謝り、自分を責めていたそうです。(全3回中の1回)
屋根の葺き替え作業中に落下

── 仕事中に事故に遭われたそうですが、どのような状況だったのですか。
渋谷さん:父と一緒に茅葺き屋根の葺き替え作業をしていて、屋根から落下してしまったんです。私は山形県の山あいの集落に住んでいて、自宅も茅葺き屋根です。父は自営の茅葺き職人で、個人のお宅や酒蔵さんの依頼で仕事をしています。私は会社員をしながら、ときどき父の仕事を手伝っていたのですが、26歳のときに会社を辞めて跡を継ぐことにしました。父は「継がなくていい」と言っていたのですが、このままだと技術を受け継ぐ人がいなくなってしまうと思ったので。
事故に遭ったのは、父の見習いで仕事を始めたばかりのころです。足場にまたがるように座って、横にいる父に茅を渡す作業をしていました。父が私のほうへ移動してくるので、私はずりずりと後ろへ下がっていきました。まだ足場が続いていると思って後ろに手をついたら、そこに足場はなく、そのまま3メートルくらいの高さから落下しました。
誰も見ていなかったので、どうやって落ちたかはわからないんです。ちょうど下に鯉の池があって、気がついたら腰から下は池に浸かっていて、上半身はうつぶせで池の縁に倒れていました。
── 意識はあったのですね。
渋谷さん:はい。ただ、水に浸かっている感覚がないから「おかしいな」とは思いました。お父さんに「早く池から出なさい」と言われて、初めて池に入っていることを認識したんです。自分のことよりも、ズボンのポケットに入れてあったスマホが水没したかもしれないと心配でした。「大丈夫なのか」と聞く父に、「いったんスマホを確認させて」と言って、スマホをポケットから取ってもらいました。スマホは無事で、インカメにして自分の状況を確認しながら、「そうだ、写真撮っちゃおう」と思って、そのまま何枚か撮りました。実は、YouTuberになったいま、「動画も撮っておけばよかった」と後悔しているんです。
── 冷静ですね。痛みはなかったのですか?
渋谷さん:痛みというより、胸から下に正座を崩したときのようなしびれがありました。駆けつけてくれた救急隊員の方に「これって、動けなくなる系ですか?」と聞いたのを覚えています。そのうち、救急車の中で寒気がしてきて、体が震えてきて。ひどい眠気もあったのですが「眠ったらこのまま死んでしまうかもしれない」と思って、「今すごく眠たいんですけど、寝ても大丈夫ですか」と確認したら、救急隊員の方に「いいですよ」と言われたので、「すぐに命に関わるケガではないんだな」とちょっと安心しました。落ちた瞬間は痛みを感じなかったんですけど、救急車の振動が背中に響いて痛くて。私が「痛い、痛い」と言うので、救急車がゆっくり走ってくれたのがわかって、「一刻を争うものではないんだな」と思っていました。病院には、後から車で追いかけた父のほうが先に着いていました。