17年間の子育てが報われた瞬間は突然に

── 西日本新聞社の編集委員を経て、現在は映画の監督や講演など、精力的に活動されています。

 

安武さん:いま、僕が監督したドキュメンタリー映画『弁当の日 めんどくさいは幸せへの近道』が自主上映という形式で全国上映中なんですが、この映画は、2001年から始まった香川県の小学校での食育の活動を取り上げたものなんです。映画の中で、妻が生前お世話になった助産師の内田美智子先生が、多感な年ごろのお子さんを育てているお母さんたちに向けて、「いつか必ず報われる日が来るから」っておっしゃっていて。聴いているお母さんたちは涙を流していました。僕はその様子を撮っていたんですが、奇しくも自分にも同じことが起こったんです。

 

── 何か起こったのですか?

 

安武さん:娘が大学生だったころのある日、娘も僕も休みだったんですが、娘が「今日はパパ、何もせんでいいよ」って言うんです。「家のことは、全部はながするから。晩ご飯も全部作るし。とにかくゆっくりしといて。新聞でも読んでて」って言うんですよ。僕は、はなに言われた通り新聞を読みながら「どうしたんやろう」って思ったんですけど、結婚記念日でも誕生日でもない。

 

そこで、カレンダーを見たら、「母の日」だったんです。思わず「母の日だけど?」って言ったら、娘は「そうだよ。だって、パパずっと今までお母さん役してくれたやん」って言ってくれた。

 

そのひと言に報われました。つらかったことがすべて一瞬で洗い流される娘の振る舞いでした。高校生のころは口を開けば「うざい」「キモい」だったのに、そんなことを考えていたんだなって。だから、子育てに一生懸命頑張っている親御さんたちにこう伝えたいんです。「今はきついと思うことが多いかもしれない。でも、きっと報われる日はやってきます。子育てを楽しみましょう」って。