闘病中の妊娠。父の「死ぬ気で産め」で出産を決断

── 結婚式当日は、結婚指輪を自宅に忘れるなどバタバタだったそうですが、結婚後は本当に幸せそうな様子がブログから伝わってきました。

 

安武信吾、安武千恵
2001年8月5日の結婚式の様子

安武さん:妻は頑張って抗がん剤治療をひと通りやり抜きました。しかもその後、奇跡的に妊娠したんです。そのいっぽうで、妻自身は、「病気が再発するんじゃないか」「子どもに何らかの悪い影響があるんじゃないか」と思い悩んで、出産をあきらめようとしていたんです。最初は気持ちの9割は、あきらめるほうにかたまっていたと思います。

 

お腹の中の赤ちゃんはどんどん大きくなって、どうするか決断しなきゃいけない。時間ばかりが過ぎて、本当に苦しかった。そんな僕たちに主治医が「同じ病気の患者さんには、産みたくても産めない人が多い。再発するかもしれないが、しないことだってある。産んでみたらどうね」と言ってくれたんです。

 

── お医者さんが背中を押してくれたんですね。

 

安武さん:医師の立場から考えると、だいぶ踏み込んだ発言だったかもしれません。そんななか、家族から妊娠のことを聞いたらしい妻のお父さんから突然、妻に電話があったんです。「お前は死んでもよかけん、死ぬ気で産め」って。それを聞いた直後は、妻は「それはないよ…」って言ってましたけど、あとで「子どもが千恵を守ってくれるはずだ」と信じての発言だったとわかりました。

 

安武信吾、安武千恵
抗がん剤治療を乗りきったころの千恵さんと信吾さん

病院へ行くことを勧めてくれた妻の恩師ご夫婦も、「あんたの子どもはかわいかろうね」って言ってくれて、まわりの人たちの声に励まされました。しかも、エコーでお腹の中の赤ちゃんを見たら、手も足も心臓も元気に動いていて。命が宿る、まさに目の前でその光景を実感して、妻は涙をボロボロ流して泣いていました。その病院の帰り道、妻は出産を決意しました。

出産直後は病気のことを忘れ「いちばん幸せを感じた時間」

── そんな経緯があったんですね。

 

安武さん:それからの妻は、友達に電話をして、「妊娠したんよ。赤ちゃんを産むよ」って明るく話していました。迷いがふっきれた感じでしたね。

 

出産するときには、病院でサポートしてくれた助産師さんが、陣痛の痛みに耐える妻を励ましてくれて。「大丈夫よ。私もあなたと同じ病気だったの。手術をした後に赤ちゃんを産んだのよ」って。その言葉に妻は、すごく勇気づけられたと思います。

 

安武千恵、安武はな
産後まもない千恵さんとはなさん

娘が無事に生まれてきてくれたあとは、結婚してから初めて病気のことを忘れて、家族3人の生活を楽しみました。僕たち夫婦にとって、いちばん幸せを噛みしめることができた時間だったと思います。