左右の胸を見比べて急に気持ちが沈んだ日
──「死にたくない」ではなく、「まだ死ねない」だったんですね。
神田さん:毎日が忙しくて、自分のことは構っていられないような状態でした。一刻も早く手術しなければ家庭が回らなくなる、という思いだけで、正直、胸を切った後のことまで頭が回らなかったんです。
左胸を全摘し、手術の2日後に初めて傷跡を見ました。乳頭ごと腫瘍を切除したので、胸がごそっとえぐられたようになっていて、あばら骨が浮いて見えるような状態だったんです。がんのない右胸とくらべると、左右の差が激しくて…。びっくりして、そのとき初めて「どうしよう」と思いました。「私、何の罰を受けているんだろう、 何か悪いことしましたっけ」と、気持ちが急に沈んだんです。

── それはつらかったですね…。
神田さん:術後にドレーン(体内にたまった血液や膿を排出するための管)を抜くときも、研修医の男性が6人ほど見学に来たんです。私は上半身裸の状態で、研修医の方たちにベッドの周りをグルッと取り囲まれました。そのうちのひとりが、私の胸の傷を見て、「ウッ」とひるんだ様子がわかりました。研修医の見学があることは、入院時に同意書に深く考えずにサインをしてしまったからしかたがないんですけど…。「私、何をされているんだろう」と、そこでまた、気持ちがドーンと落ちてしまいました。
忙しい毎日から一変して、ひたすらベッドに寝ているだけの生活へと環境の変化にもとまどいました。それで、あるとき、涙が止まらなくなってしまって…。いま考えれば本当に申し訳ないんですが、なぐさめに来てくださった看護師長さんを「私に構わないで」と、突き飛ばしてしまったんです。