「あの子、男の子ですよ」ある日、密告された。
── つらいですよね。
佐藤さん:そうですね。先生も誰ひとりとして私の事情を聞いてくれなくて「ダメなものはダメ」と頭ごなしに突っぱねられました。自分という存在が、この場にいないものとして扱われているように感じました。でも、それで逆に覚悟が決まりました。誰も理解をしてくれないのなら、自分の世界は、自分で作るしかないって強く思ったんです。それで、学校を休んでいる間は、自分の好きなことをしようと決めて、女の子の服を着て、ファッションもメイクも自由に楽しみました。
── お休み中はどのように過ごされていましたか?
佐藤さん:知り合いのコンビニで少しだけお手伝いをして、おこづかいのような形でお金をもらっていました。頑張ってお金を貯めて、そのなけなしのお金でコスメを買っていたんです。コスメとか、欲しいものがたくさんあったんですけど、母にはなかなか言えませんでした。というのも、私が小学生のときに両親が離婚して、母子家庭になったんです。休学していることで、ただでさえ母に心配をかけているのに、これ以上負担をかけたくないという思いがあったんです。
── 自分でどうにかしないと、という気持ちが大きかったんですね。
佐藤さん:お金の心配までさせてはいけない。ずっとそう思っていました。でもある日、お店に電話がかかってきて、「あの子、男の子ですよ」って密告されてしまいました。お店の方は私のことを理解していてくださったのですが、クレームを入れる第三者のせいで営業妨害になってしまったんです。それで、そのお店でお手伝いができなくなってしまいました。もう一度、新しいお店を探すんですけど、その先でもやっぱり密告の電話がかかってくるんです。そういうことを繰り返していました。
── そんな電話をする人がいるんですね…。
佐藤さん:いますね。でも、もう慣れてしまいました。幼いころから、自分の好きなことや、やりたいことを貫こうとすると、必ず誰かに反対されたり、密告されたりするのが当たり前でした。物心がついたときから、ずっとそんな経験ばかりしてきたので、何かが起きても「こんなところで止まっていてもしょうがない」と、自然とあきらめる気持ちが身についていったように思いますね。