私をいじめた同級生が子連れで舞台を観にきた

── 演技の経験はあったのですか?
河除さん:演技の勉強をしたこともないし、舞台の経験もなかったです。私なんかが表舞台に出てはいけないと思っていましたから。でも、小さいころからひとりで演技っぽいことをするのは好きだったんです。図書館司書の仕事をしているので、職場で読み聞かせをするのも好きで、得意でした。だから、やったことはないけれど、「きっとできる」という根拠のない自信はあったんです。
「私なんかが見てもらえるのかな」と不安はあったけれど、実際にひとり芝居をやってみたらスポットライトを浴びるのが気持ちよくて、「これが自分だ!」という爽快感がありました。自分が経験した本物の感情だから、自然に出せたのだと思います。観てくれた人が「かっこよかったよ」「すてきだったよ」と声をかけてくれたのもうれしくて。すごく楽しかったです。
1回きりのつもりだったのですが、演じ終わったあとに「表舞台に出てもいいんだ」という気持ちが自分のなかでわきあがってきて。それからは、全国で数多くのひとり芝居を演じてきました。地元では自主企画のイベントを6回開催し、そのなかでひとり芝居をやりました。そのうちの1回に、中学校のときに私をいじめていた同級生が、自分のお子さんを連れて来てくれたんです。
── それは勇気がいることですね。
河除さん:そのときに、彼は自分のお子さんたちに、「中学生のとき、この人のことをいじめていた」と話していました。「人はこんなに変わるんやな」と思いました。いじめを止められるとしたら、こういうことじゃないかと思うんです。やってしまったことをなかったことにするのではないけれど、「こういうことをするなよ」と子どもたちに伝える意義は大きいと思います。
彼とは今も交流が続いています。「マイフェイスマイスタイル」というNPO法人の代表で、見た目問題を発信している外川浩子さんが本を書かれることになったとき、「いじめた側の人の話が聞きたい」と言われて、彼に話したらインタビューを受けてくれました。
同窓会に行くと、当時私をいじめていたほかの同級生も「悪かったな」とか「活動を応援してるよ」とか言葉をかけてくれて、みんなでいい関係をつくれたと思います。