「頭の片隅でいいので」と、願うことは

河除静香
劇団の初舞台は「イケメンサラリーマン役」

── ひとり芝居の動画を拝見しましたが、すばらしい表現でした。


 
河除さん:
じつは、2年前に地元の社会人劇団に入ったんですよ。見た目問題と関係なく、「いち役者」としてお芝居をしたいと思いまして。

 

昨年は、初舞台で役をいただきました。それが、ヒロインの恋人の「30代、イケメンサラリーマン」の役だったんです。私のひとり芝居を見てくれた演出家の方が、その役に起用してくださったのですが、劇団のなかには「河除さんの顔でイケメンサラリーマン役を演じるのはどうなんだ」という意見の人もいました。

 

それで本番の1か月前に、話し合いの場が持たれました。私を傷つけないように言葉を選びながらも、みんなが自分の意見を忌憚なく話してくれました。「マスクをつけて出たらいいんじゃないか」「見ている人が顔に気をとられて、話が入ってこないんじゃないか」といろいろな意見が出ました。最後に私が意見を求められたので、「みんなと一緒にマスクなしで出たい。でも、私が出ることで舞台がこわれてしまうなら、それは望まないので、みんなが決めたことに従いたい」という話をしました。

 

── どんな結論が出たのですか。

 

河除さん:「マスクをしないで出る」ということになりました。みなさんから、「1年間一緒にやってきて、一生懸命やっている姿を見てきた」「舞台は顔じゃない、演技がすべてだ」と言ってもらえて、うれしかったですね。見た目問題に関係のない人たちが私の顔のことを話し合うというのは、私にとって画期的なことでした。最後に劇団員のひとりが「やめんといてね」と言ってくれて…。同情を買うようで涙は見せたくなかったのですが、それを聞いたら涙が出ました。今も思い出すと泣けてしまいます。

 

公演には、2日間で300人の方が見に来てくれました。アンケートでは、ひとりだけ「あの人の顔、どうした」と書いた人がいましたけれど、大多数は「かっこよかった」「イケメンだった」「全力でやっているのがわかった」という好意的な意見でした。自分が「いち役者」として認めてもらえてうれしかったですし、所属している劇団の度量の大きさにも感謝しています。

 

今年の公演にも出るんです。見た目問題に関係なく、ひとりの役者として評価してもらえるのが楽しいです。10年以上、ひとり芝居をやってきましたけれど、劇団に入ってみて、自分がいかに天狗になっていたかがわかりました。ひとり芝居をほめてもらってその気になっていましたけれど、演技の勉強をしたこともないし、お芝居は下手だったんです。今もバシバシしごかれています。

 

── これからの活動についてお聞かせください。


 
河除さん:
劇団はできる限り続けたいですし、ひとり芝居や講演を通じて「見た目問題」を発信する活動もやっていきたいです。主催している「Smiley Tomorrow〜北陸から『見た目問題』を考える〜」という交流会の活動も続けていきたい。最近は、小学校、中学校、高校に講演に呼んでもらう機会が増えました。まさに私が伝えたい世代に伝えられるのが嬉しいです。活動を始めて10年くらいになりますけれど、知ろうとしてくれる人が増えているのはありがたいことです。


 
ひとり芝居を通じて、いろんな見た目の人間がいるということを知ってもらいたいし、「私たちも人間なんだよ」ということをわかってほしいですね。たとえ相手が子どもでも、「気持ち悪い」とか「バケモノ」とか言われたらイヤな思いをします。私たちも日々の生活を送っている人間なんだよ、ということを伝えたいです。

 

四六時中考えてくれなくていいから、「いろんな人間がいて、それはあたりまえのことなんだ」ということを頭の片隅で覚えていてほしい。それが私の願いです。

取材・文/林優子 写真提供/河除静香