病気になってよかったとは言えないけれど

小澤由実
2025年3月に家族で韓国へ。あのころが嘘のよう…

── 小澤さんが白血病と向き合ってきた経験をふまえ、いま伝えたいことは何ですか?

 

小澤さん:自分が病気になったときに「なんで私が病気になってしまったんだろう」という思考になると思うんですけど、私は「病気になったのには意味がある」と考えるようにしました。そうすると前向きになれたんです。

 

もちろん私も白血病の告知をされた日の夜は、初めて死を意識して全然、前向きにはなれませんでした。特に急性リンパ性白血病については、調べても調べてもネガティブな情報しか目にしなかったので…。そうすると本当に自分も気持ちが落ち込んじゃって、克服した人、元気になった人の話はないの?と希望を必死に探すんですよね。私の場合は同じ急性リンパ性白血病患者からオリンピックに出場するまでに快復された水泳の池江璃花子選手の存在が大きな希望の光になりました。

 

だから、大げさですけど、私も自身の経験を伝えていくことで、誰かの頑張る力、希望の光になれたらいいなと思ったんです。そのために「絶対に復活するんだ」という強い気持ちを持って、治療中も自分を鼓舞することができたと思っています。入院中の経験をブログにつづってきたのも、急性リンパ性白血病患者に私のような治療パターンがあることを知ってもらいたいと思ったからです。

 

── 使命感が病気と闘う力になったんですね。

 

小澤さん:「病気になってよかった」とは決して言えないですけど、悪いことばっかりじゃなかったと思います。月並みですけれど、今まで当たり前に生活してきたことが病気によって奪われて、当たり前じゃなかったんだと。それに気づいて家族への感謝の気持ちを再確認することができました。あとは、患者自身も、それを支える人たちもしっかり食べて気力と体力を養っておくことですね。

 

そうそう、支える人という視点で見ると、お友達や知り合いの方ががんになられたとき、連絡していいのかなと思う方が多いですよね?

 

── 何と声かけしていいか迷う部分はあります。

 

小澤さん:もちろん、いろんな受け止め方をされる方がいらっしゃるので、それぞれだと思うんですけれども、私は連絡をいただくのがすごくうれしかったです。がんを患ったことを知らせたときに「あなたのことを気にかけているよ」という気持ちが伝わるメッセージをいただくと、あったかい気持ちになりました。

 

入院中はとても孤独で世界から断絶された気分です。だから、もし周囲の方ががんになってしまったら、連絡をしてみてあげてほしいです。その結果、そっとしておいてほしいという空気を感じたらそこまでにすればいいですし。私の場合は、もう20年近く年賀状でしかやりとりをしていなかった昔の知り合いから連絡をもらって再会できたり、ブログにコメントいただいたりして、病気になったからこそのつながりが生まれました。

 

── まずは「気にかけている」ことを伝えてみると。

 

小澤さん:はい。そして、話を聴いて、寄り添う姿勢がとても大切なことだと思います。頑張れと励ますだけじゃなく、まずは共感するということが患者の気持ちを軽くします。こうした患者としての経験を社会に還元できるように、先日「両立支援コーディネーター」の研修を受講しました。

 

両立支援コーディネーターは、働く人が治療と仕事を両立できるよう、患者や家族、主治医、企業の間に入り、必要な支援を調整・提供する人のこと。社会保険労務士の資格も活かせますし、がんサバイバー当事者として、今後は、患者さんに寄り添って共感しながら、その方が仕事を続けるべく伴走できるようになればと願っています。


取材・文/富田夏子 写真提供/小澤由実