下着の盗難や性被害が起こる避難所の現状

── 犯罪抑止の観点も製品づくりに反映したとおっしゃっていましたが、実際に避難所ではどんなことが起きているのでしょうか。

 

表さん:信じがたいことなのですが、私がボランティアで行った避難所では、使用済みのナプキンや使用済みの紙パンツをトイレやゴミ箱から取っていく人がいました。当時学生だった私は、それを知って衝撃を受けました。避難所には多くの人が出入りしているので、誰の仕業かわからないというのも怖かったです。

 

ファスナーつきケースに入った災害用女性下着
配りやすさにこだわり、一つひとつ、かわいらしいファスナーつきケースに入った災害用女性下着

── 聞いていてゾッとします。

 

表さん:「命が助かってよかった」と安堵する災害直後にはそういったことは起きないのですが、数日経ってだんだんと物資が運ばれてくるようになったころから、いろんな行動を起こす人がいるということを知りました。目をつけられるといいますか、時間が経つにつれて、どこに誰がいるということがわかってきて、性被害を受ける方も出てきます。被害を受けた方は、加害者が顔見知りということもあって、なかなか声をあげにくいということも伺いました。

 

── 地域の方が一斉に避難して、同じ場所で生活している弱みにつけこむ…。ショックですね。

 

表さん:本当に信じがたいのですが、避難されている方だけではなく、ボランティアで入った人が加害者だったということもあります。みなさん、周りに見えないように着替えは布団のなかでするとか、下着もなるべく長時間干さなくてもすぐ乾くよう、タオルで水を吸わせてから干すなど工夫はされています。私たちボランティアが交代で見張りをつけることもあるのですが、どうしても防ぎきれないところがあります。人目を避けるパーティションがあったとしても完全にプライバシーを保護するのは難しいですね。

 

── 実際に避難所で性被害にあった方と話をされたこともあるそうですね。

 

表さん:避難所でのたった1回の出来事で、その後、何年も精神科に通っているという方がいます。被害にあったのは「自分のせいじゃないか」というような精神状態になって、心の傷としてその後も残り続けてしまうようです。性被害の話はどうしてもこうやって取材時はオブラートに包んで話さないと世に出せないということもあるので、そうすることで興味本位の方が出てきたりすることもありますし、本当に難しい問題だと感じています。被害にあった方が抱えているものは、周りが思っているより重くて、自分自身で相当葛藤して、思い詰めているところがあります。性被害などが起こらないのがもちろんベストですが、もし起きてしまった場合は、その直後、そしてその先のサポートについても、より徹底したケアを考えていかなくてはならない問題だと思います。

 

── 避難所のような閉鎖的な空間ではたくさんの目があるように感じるのですが、周りの方は気づかないのでしょうか。

 

表さん:避難所の特徴として、人はたくさんいるのにみなさん周りをみているようで見ていないということが挙げられると思います。やはり災害の後は自分のことで精いっぱいといいますか、預金通帳もないしハンコもない、家のローンはどうなる、頼れる親戚は…など、目の前のことで手いっぱい。この先の不安が大きいなかで、人のことまでなかなか考えられないことも影響していると思います。

 

── 今後、取り組まなくてはいかなければならない避難所での課題について教えてください。

 

表さん:災害が多い日本では、いつなんどき、誰でも当事者になりうるという状況ですので、被害を最小限にするために、できることを一人ひとりに考えていただけたらと思います。どこかで災害が起きた直後は意識が高まるのですが、日常に戻るとどうしても意識が薄れてしまいます。

 

自治体の担当者が窓口となって物資を避難所に仕分けることが多いのですが、男性が圧倒的に多く、女性の物資に関しては想像がしにくいようです。生理用品や下着については、どのくらい必要かがわかるよう、性教育の一部としてもっと広めていく必要があると思います。

 

現在は、企業や自治体の方と連携して製品化した災害用下着を避難所に届けているのですが、それを個人でもできるよう、防災バッグに女性の下着を含めるというのがもっと当たり前になってほしいですね。命を繋いだあとの尊厳を守り、女性が安心して生活が送れる環境をつくっていく活動ができればいいなと思っています。

 

取材・文/内橋明日香 写真提供/Amcas