ふきんを床に投げつけ家を飛び出したあの日

高畑百合子
2人目が生まれる1か月前。家族3人の貴重な時間

── 感情の爆発は、旦那さんに対して?

 

高畑さん:夫や母に向かうこともありましたが、誰かにイラ立つというより自分で自分の体がどうにもならないことに対してイラ立っていました。

 

そんなギリギリのある日、長男にごはんをあげていたら、遊び始めてほとんど食べないので、全然食事が終わらなくて。私が飲み物を取るために冷蔵庫を開けたら、子どもに見つからないように上のほうにしまっておいたチョコレートが落ちてきました。それを見つけた長男が、すごい勢いでハイハイしてきて、チョコレートの包みをむいて食べ始めたんです。私が体調悪いなか作ったごはんは全然食べてくれないのに、落ちてきたチョコレートをうれしそうに食べる。その姿を見た瞬間に何かがプチっと切れて、手に持っていたふきんを床に投げつけて大きな声を出し、トイレに駆け込んでしまったんです。

 

── ギリギリのところでがんばっていらっしゃって…もしかしたら産後うつに近い状態だったのかもしれないですね。

 

高畑さん:子どもの前でそこまで感情を爆発させたのはその1回だけで、かわいそうなことをしたと今でも思っています。驚いた長男はトイレの前まで大泣きしながら這ってきました。さいわい夫と自分の母が家にいて、何事もなかったかのように息子を抱き上げてあやしてくれましたが、私はこのまま家にいてはダメだと思い、家を飛び出しました。

 

猛暑のなか、号泣しながらフラフラと歩いていると、息子と行ったことがある子育てひろばの建物が目に入り、とりあえずそこのインターフォンを押しました。スタッフの方は、泣きながら立っている私を見てびっくりされたと思いますが、とにかく入ってと招き入れてくださって、私の話をずっと聞いてくれました。

 

2時間くらい話したらしゃべり疲れてお腹が減ってきて。そこで思考がスッと切り替わり、家に帰ることができました。その間、夫と母が連絡せずほうっておいてくれて、ひとりになれたこと、家族以外の誰かに話を聞いてもらえたことが結果的によかったんだと思います。でも、あのときの長男のつらそうな泣き声は今でも忘れられないです。

 

── 産後、追い詰められた母が子どもを傷つける事件を起こすようなこともあります。ギリギリのところでがんばるママにとっては人ごととは思えないのではないでしょうか。

 

高畑さん:さっきまでニコニコしていても、突発的に怒りや我慢していたものが湧き上がってくるときがあるんですよね。私はたまたま怒りのパワーをぶつけた先がふきんだったのでまだよかったと思いますが、直接、子どもに向かっていたらと思うと怖いですよね。自分も経験してみてびっくりしました。