当時はドローンの情報がまったくなくて

── そのドローンは、白石さんの持っていたものとは別種類だったのでしょうか?

 

白石さん:そうなんです。気になって調べてみたら「FPVドローン」という、まったく別のものでした。一般的なドローンは、下から機体を見上げて操縦します。いっぽうで、FPVドローンは操縦者がゴーグルをつけ、ドローンにつけたカメラ映像を直接見られます。ドローンから見た景色を目の当たりにできるってことですね。自分が空を飛んでいるような臨場感を味わえるんです。

 

FPVドローンは機体も操作方法も、当時、私が持っていたものとはまったく違いました。「おもしろそう」と、さらに調べていくと、ドローンを操縦し、決められたコースを早く飛ばせるかを競う「ドローンレース」があることを知りました。情報発信している人たちにすぐにコンタクトをとると、レースや練習会の情報を教えてくれたんです。実際に見学に行き「私もこういうドローンを飛ばしたいです」と言うと、すごく驚かれました。当時はまだ、FPVドローンをやりたい女性が少なかったからです。まったく情報がなくて、自分で情報を集めて、機体を組み立てるところからのスタートでした。

 

白石さん愛用のドローン

── たくさんの人から応援してもらったのですね。自分で機体を組み立てたとのことですが、どのようにやり方を学んだのでしょうか?

 

白石さん:英語のサイトを調べるなどしていました。ただ、英語を翻訳しても専門用語ばかりで何の話をしているのかわからないんですよ。たとえば「VTX」という、ドローンで映像を送信するビデオトランスミッターがあります。いまでこそ、ドローンの世界では一般的なものになってきましたが、私がドローンを始めたころは、そもそも「VTX」が何かわからない。

 

それが何を指すのか説明してくれるものがなく、Google翻訳でも「ここにVTXをつける」みたいに、当たり前の単語として出てくるんです。周囲にも知っている人がいないから、みんなに相談しながらひとつずつ解決していきました。わからないことだらけで大変ではあったものの、謎解き感覚で楽しかったです。

 

FPVドローンの操縦には無線電波を利用するため、第4級アマチュア無線技士以上の資格が必要です。私は免許取得をしてすぐ、レースに出場しました。当時、ドローンレースが少しずつ開催されるようになっていたんです。出場した大会もすごくいいイベントで、私みたいな超初心者でも気軽に参加できました。結果はさておき、参加できるだけでも本当に楽しくて。もっとうまくなりたいと夢中になり、時間さえあれば練習をしていました。家のなかでもずっと操縦しているほどでした。

 

選手として本格的にレースにも参加し、2018年にはドローンレース世界選手権の日本代表にも選ばれました。現在は主にドローンレースの企画運営や、ドローンを使用した撮影などを主な仕事として取り組んでいます。グラフィックデザインの仕事も続けていますが、ドローン撮影ができるおかげでデザインの仕事の幅も広がっています。ドローンの撮影の際も構図を考えるときなど、デザイナーとしてつちかってきた技術や視点が役に立っています。