子育てのテーマは「1日1イベント」
── 仲のよさが伝わってきますが、秋川家の「父の日」はどんなことをするんですか。
秋川さん:実はわが家は、イベントのたびにプレゼントをするなど、特別なことはあまりしません。子どもたちの誕生日やクリスマスにはケーキを買いますが、あくまで父の日も母の日も普通の日として過ごします。その代わり、1年のなかにあるイベントを、日々の生活のなかに振りわけています。

── 生活にイベントを盛り込むとは、具体的にはどういったことでしょうか。
秋川さん:子どもが小さいころ、「1日1イベント」というのを妻と子育てのテーマにしようと話してきました。昨日と同じではない何かをすることなのですが、別にそれはすごく特別なことではなくていいんです。
近くの公園に行くでも、家の中でできる遊びでもいいので、「昨日と同じときが過ぎてしまった」いうことがないよう意識してきました。子どもが幼稚園のころは、部屋にカードを並べて、子どもふたりがうつ伏せになり、私がお題を出して「よーい、スタート!」で瞬時に起き上がってカードを取るゲームなどをしていました。道具がなくてもできる遊びもよくしました。たとえば私が「おにぎり」と言って、それを子どもたちが逆さまから「りぎにお」と言ってみるなど、なんでもゲーム感覚で子どもと楽しんできました。
── 誕生日にプレゼントは贈らないとのことですが、お子さんたちが欲しいものがあると言ったときはどうされていたんですか。
秋川さん:子どもが何か欲しいと言っても「誕生日まで待っていなさい」というようなことは言いません。誕生日というのは、何も頑張らなくても迎えられるじゃないですか。子どもたちが何か頑張りたいことを見つけたときに、それをクリアした後に贈るのがわが家のプレゼントの仕方ですね。
こういうと、まるで物で釣っているかのように思えるかもしれないのですが、成果を得られた先にプレゼントが待っていると、やる気がより起きますよね。それに、子どもが何かを頑張っているときは、私も一緒に頑張ってきました。息子が小学生のころ、リレーの選手になりたいと言ったときは一緒にタイムを測って走り込んできましたし、子どもたちの運動会では父親のリレーに参加して大人が頑張る姿を見せてきました。目標を共有して一緒に取り組むことで、子どもたちは「自分たちばかり大変なことを押しつけられている」という理不尽さは感じないと思います。息子も娘も、物事をやり遂げるまでの熱量が強い子に育ったと感じています。
── 「親も一緒に頑張る」、頭ではわかってはいてもなかなかできることではありません。
秋川さん:子どもに望むことがあるならば、親も自分自身を振り返ってみる必要があると思います。たとえば、お子さんのスマホの使い方に悩む方は多いと思いますが、親自身はどうでしょう。普段、携帯ばかり見ていませんか。子どもに教育するときは、親も自身の行動を振り返らないと信頼されないと思います。大変と思うのではなく、親自身もお子さんと一緒に成長できるチャンスです。決してマイナスにはなりませんし、いつか子育てを振り返ったときに楽しい思い出になってくれると思います。
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歌手の仕事を続けながら、近年は彫刻家としての活動も行う秋川さん。美術展で入選した作品は「1000万円で売って欲しい」という声もあったそうですが、「彫刻はあくまで趣味」と販売の申し出を断ってきたそう。その理由を尋ねると「仕事にしてしまうとのめり込んでしまい、自身の作品に対する不満が出てしまうから」だとか。仕事と趣味のバランスを保つことで「仕上がった作品に大満足」と語る秋川さんは、今後も自身のレベルに合った作品を生み出し続けていきたいそうです。
取材・文/内橋明日香 写真提供/秋川雅史