とうとう歯ブラシまで置かれるように

── あまりにも堂々としていますね…。

 

川瀬名人:嘘みたいな話ですけど、本当なんです。これは明らかにおかしいし、こんなこと間違ってると思って本来、絶対にやってはいけない、彼女の携帯を見るという行動に出ました。そしたら、やっぱり別の男と会っていて。その男が家にも頻繁に来ていることがわかりました。さらに、来週も僕が夜にバイトしている隙を狙って、家に来ることまでわかったんです。

 

── どうしたんですか?

 

川瀬名人:まずはバイト先の店長に事情を説明して「バイトを休ませてほしい」と相談しました。彼女が男と会っているところに突撃するためです。店長も浮気された経験があったらしく「休んでいいよ」と言ってくれました。代わりに「何があるかわからないからこれを持って行け」と、護身用に店に置いてあったバットを持たされました。

 

── なんだか物騒な話になってきましたね。

 

川瀬名人:それで、僕は彼女が男と会う約束をした当日、バットを持って彼女と暮らす家の近くの裏路地に隠れていました。でも、バットを持って裏路地にいるうちに、このバットは護身用ではなくて凶器になってしまうと思いました。僕は頭に血がのぼりやすいタイプなので、何をするかわからない。そう考えて、自分が悪者になってしまうと思い、裏路地の隅にバットを置きました。それから少し時間をおいて、家の近くに戻って中の様子をうかがうことにしました。

2階から逃げた間男を追いかけた

── バットを置いて行って安心しました。

 

川瀬名人:僕と彼女が住んでいたアパートの部屋は2階にありました。階段を上って部屋の前まで行ったんですが、その時点で僕はもう頭に血がのぼっていて。何度も深呼吸をして落ち着こうとしたんですけど、部屋の前に立ったとき、中から彼女と男の声が聞こえてきたんです。その声を聞いたら、もう冷静ではいられなくなってしまいました。気づいたら、何度も何度もインターホンを押して「いるのはわかってるんだぞ!」って叫んでいました。

 

── 冷静ではいられないですよね…。

 

川瀬名人:そしたら急に中にいる2人の声が聞こえなくなって、ドサッっていう音が聞こえたんです。男が2階から飛び降りて逃げたというのがわかり、僕も慌てて1階に降りました。案の定、外には足を引きずりながら逃げる、長い髪の男がいました。「おい、待て!」って言ったら、一瞬そいつが振り返ったんですよ。そしたら、お笑い芸人のZAZYにそっくりだったんです。ZAZY似の男は足をひきずりながら、裏路地へと逃げていきました。

 

── 衝撃の連続ですね。

 

川瀬名人:ZAZY似の男は裏路地のどこかに隠れてしまったので、かまをかけて「出てこなかったらお前の職場におしかけるからな!」って叫んだんです。そしたら、裏路地の奥から足をひきずりながら「すみません…」って、ZAZY似の男が出てきました。よく見たら、僕が裏路地に置いたバットを杖代わりに使ってるんですよ。これ、本当の話ですからね!さすがに僕も笑いそうになりました。でも、さらにびっくりしたのが、彼女がやってきて「大丈夫?」って駆け寄ったのが僕じゃなくてZAZY似の男のほうだったんです。

 

── ショックですね。

 

川瀬名人:そこから、3人でちゃんと話すことになって、家に戻りました。テーブルの前に座って話し合うなかで、「あなたとはもう別れた」「一緒に住みたくない」って僕が彼女に言われたんです。そのとき初めて、ZAZY似の男はただの浮気相手じゃなかったと知ったんです。なんなら、僕のほうが浮気相手だったんですよ。その瞬間、視界がグラッとゆがみました。