名誉挽回したくて毎日走った
── 素晴らしすぎます。
川瀬名人:そうなんですよ。今でも覚えています。最終的に1㎞を4分54秒で走れるようになったんです。これって、かなり速いタイムなんですよ。だから、本番はぶっちぎりで1位になれるぞと、かなり期待して挑みました。でも当日、メンバーを見たら、俺以外全員陸上部の選手ばかりで様子がおかしいんです。明らかに速そうな、気合いの入った人しかいない。どうやら、翌日に大阪の高校の陸上部の記録会があったらしくて、その年だけ陸上部の人たちが全員、調整のために1500m走に出場してきたんです。
── すごいタイミングですね…。
川瀬名人:俺も、めっちゃ速いはずなのに周回遅れにされて…。長距離走って差をつけられると、短距離走よりも目立つじゃないですか。だから、意気揚々と1500m走に立候補したにもかかわらず、ぶっちぎりで最下位になるという、またしても謎のやつになってしまいました。これをきっかけに、今までは「変わってるけど興味もないやつ」だったのが、悪い意味で興味を持たれるようになったんです。実際に「あいつ、意味わからんから一回しめようぜ」みたいな、明らかにいじめられそうな空気が漂ってきました。そういう空気感って自分でもなんとなくわかるんです。このままだと自分はやられる、これはまずいと思いました。
── どうされたのでしょうか。
川瀬名人:今のままだと、いいようにされると思って、自分なりにどうしようか考えました。それで、頭をいきなりスキンヘッドにしたんです。さらに眉毛もかなり細くして、アイプチをした状態で翌日登校しました。
── ええっ…。
川瀬名人:さらに、注目を集めるためにあえて遅刻して、2時間目の英語の授業の途中に教室に入りました。当然、大注目ですよ。でも、そこから嘘みたいにいじめられる空気がなくなりました。むしろ今度は「触れてはいけないヤバいやつ」として、本当に誰も近寄ってこなくなりました。
そうこうしているうちに、自分の世界が確立されていったんです。当時、誰も話しかけてこなかったので、休み時間は大好きだったアニメ『エヴァンゲリオン』に出てくる碇ゲンドウを意識したポーズをしていました。机にひじをついて、口の前で両指を絡めるポーズです。休み時間はひとりでそのポーズをとっていました。