やることすべてがうまくいかなかった高校生活

川瀬名人
今の風貌からは高校時代が想像つかない

── スキンヘッドで細眉でアイプチをして、そのポーズをしていたんですね。

 

川瀬名人:はい。2年生になったらクラスが変わるし、状況も変わるだろうと少しだけ期待していたんですけど、もう無理ですよね。クラスが変わっても、1年生から同じクラスの人が何人かいるわけですし。そのキャラのまま3年間を過ごしました。怖いのは、こういう話ってだいたい盛るものなんでしょうけど、僕に関してはまったく盛っていないことですね。こんな高校生活でした。

 

── 当時、どのようなお気持ちだったのでしょうか。

 

川瀬名人:半年に1回くらいは友達がほしいなと思って頑張ろうとするんですけど、すべて空回りするというか、うまくいかないんですよね。そんな状況を繰り返していくうちに諦めの境地に達しました。いい意味でも悪い意味でも、ひとりでいることって慣れていくんです。暇なので、空いた時間は図書室に行って、気になる本を片っ端から読んでいました。

 

── どんな本を読まれていたんですか?

 

川瀬名人:五木寛之先生の本が好きで、よく読んでいました。たまたま五木寛之先生の『生きるヒント』を読んでいたら、担任の先生に「何か困ったことはないか」と心配されたこともあります。あと、僕は上宮高校というところに通っていたのですが、そこは司馬遼太郎先生の母校なんです。それで、司馬遼太郎先生の作品が全部置いてあって、夢中で読みました。

 

── お気に入りの作品はありますか?

 

川瀬名人:当時『坂の上の雲』が好きでしたね。先生の作品を読むことで、人の生きざまや特性を言語化する思考のクセがついたように思います。司馬遼太郎先生の小説に出てくる人物って、時代を背負いながら、自分にできる役割をまっとうしてますよね。「できる人」とひと口に言っても、どんな立ち位置で社会にいて「できる」存在になっているのかって違うじゃないですか。一人ひとりに特性や役割、使命があるんだってことを知りました。小説を読みながら、登場人物のすごさを言葉にしていくのがすごく楽しかったです。

 

── 読書を通して得たものがたくさんあったんですね。

 

川瀬名人:そうですね。友達がいなかったからこそ、いろんな思想に触れることができました。いい本との出会いがあったおかげで、自分を追い詰めずに腐らずにいられたんだと思います。でも、だからといって結果、よかったとも言いきれないんですよね。やっぱり、大人になってどんなに後悔しても、10代の若さと、友達同士で何かをする時間はもう取り返せないですからね。

 

── たしかにそうですね。

 

川瀬名人:諦めてひねくれてしまった部分があったんですよね。「どうせ高校生活なんか」とか「友達なんて」って。もっと素直になってもよかったと思います。だから、今の環境をつまらないなと感じている人がいたら、諦める前にちょっとだけ勇気を出して、楽しんでみる気持ちを持ってもいいかもしれません。もちろん、無理だったらそれでいいし。

 

── あまり斜に構えすぎないことですね。

 

川瀬名人:そうですね。ただ、がんばったけど環境になじめなかった人もいると思うので。その場合は、本をめちゃくちゃ読むとか、趣味に思いきり没頭するのがおすすめです。自分の世界が広がると思います。あとは、新しい環境での自己紹介はまじで普通にせえよと、当時の自分に言いたいですね。

 

 

その後、大学に進学した川瀬名人は、在学中に観たM-1グランプリに衝撃を受け、芸人の道を志します。ところが、吉本興業の養成所に通っている最中、浮気事件をきっかけに家を失い、ホームレス生活を送ることになります。人生のどん底を経験しますが、「M-1優勝」という目標があったから、自分を奮い立たせることができたそう。「やっぱり、目標って大切です」と語ります。

 

取材・文/大夏えい 写真提供/川瀬名人