「金メダルは間違いない」確信して現地へ

── 妊娠中に、パリでパラリンピックが開催され、現地で観戦されたんですよね。
久下さん:そうなんです。妊娠26週のときにパリへ行きました。つわりもなく安定していたとはいえ、妊婦の状態でパリへ行くことには、周囲から心配や反対の声もありました。知り合いから「私なら行かない」と、はっきり言われたこともあり、ものすごく悩みましたが、パラリンピックの会場で試合をする日本代表チームをこの目で見たかったので…家族や医師とも相談して対策をしっかりしたうえで渡仏しました。
── 結果、車いすラグビー日本代表は見事、金メダルを獲得しました。
久下さん:本当にうれしかったですし、パリまで行ってよかったです。夫が選手の一員で、そしてアナウンサーとして取材してきたチームが金メダルを取る瞬間が見られるなんて一生に一回あるかどうかですから。パラリンピックで世界一なんて、すごいことすぎて、いまだに実感がわかないときがあるくらいです。
── 金メダルを獲得する予感はあったのですか?
久下さん:実は…東京パラリンピックのときは「金メダルを取ってほしいな」と強く願う感じだったのですが(結果は銅メダル)、パリは「金メダル間違いなさそう!」と思ったんです。夫から聞いていたチームの状態がよかったのと、直前の大会でメンバー全員が出場して勝ったので、誰が出ても強いという確信があり、これはいけるんじゃないかと思っていました。
「大切なのは家族が笑って楽しく過ごせること」
── 日本代表選手を支える家族として、気をつけていたことはありますか?
久下さん:距離感ですね。たとえば夫の調子が悪そうなときに「いま調子よくないの?私にできることない?」と聞いても、「いや、大丈夫」と答えるばかり。私があれこれ心配して口出ししてしまうから、それがプレッシャーになるとはっきり言われてしまったことがありました。
── 声のかけ方が難しいですね。
久下さん:パリ・パラリンピックの前がいちばん夫との距離感に悩んでいて、車いすテニスの金メダリスト・国枝慎吾さんの奥さんに相談したんです。国枝選手は、自分自身を「俺は最強だ」と奮い立たせることで有名ですが、家では弱音を吐けるようにしていると奥さんは言っていました。メディアには「絶対、金メダルを取ります!」と言わなければならない空気があるので、家でも家族がいろいろと口出ししてプレッシャーを感じると気が休まらないでしょう、と。「大切なのは何としてもパラリンピックに行くことじゃなくて、家族が笑って楽しく過ごせることじゃない?」とアドバイスをもらったんです。
本当にそうだなとハッとして。何で私は勝手に「パリに行く」「パリで勝つ」という期待を押しつけていたんだろうと。プレイするのは夫で、夫の人生なのに、なぜ口出しするようなことをしてしまったのかと。そこから気持ちが切り替わって、楽しくプレイしてもらえる環境を整えようというマインドになりました。ちょうどそのころ妊娠が発覚したので、私の意識がお腹の赤ちゃんのほうに分散して、自然といい距離感が生まれました。