「子どもの人生のハレの場」だから「裏切っちゃいけない」

── どんなことが?

 

坂田さん:当時の『おかあさんといっしょ』の収録は、1日3本撮りだったのね。子どもたちを入れ替えて1回分の歌やコーナーを進めるんだけど、テレビ越しには楽しそうに見える子どもたちも、収録現場では絶対に緊張してるんですよ。

 

坂田おさむ
2024年『おかあさんといっしょ』65周年記念番組の出演時

── きっとそうですよね。

 

坂田さん:僕らは番組進行に加えて、子どもが楽しく収録できるようサポートするんだけど、スタジオの向こう側では親御さんたちがずっと、こちらを見てるのね。で、子どもは最後に上から降ってきた風船を手に帰るんだけど、ほとんどの子が親御さんに「今日、頑張ったでしょう?」とか言うのが聞こえてきてね。「そっか、僕も少し緊張したけど、君たちも緊張したのか。ハレの場だもんな」と思って。

 

──『おかあさんといっしょ』に出演するのは最高のハレの場の体験だし、一生の思い出ですよね。

 

坂田さん:そうなんですよ。ある日ふと、そのことに気づいて。たぶんこれは僕だけじゃなく、歴代のおにいさんおねえさんたち、みんなが感じていると思う。僕らはよく「幼稚園の先生みたい」と言われたりするけど、本物の先生は毎日子どもたちと会うじゃない? だけど僕らは、収録1回分の20分程度。本当に一期一会なんですよ。しかも子どもにとっては、最初で最後のテレビ出演かもしれない。僕らには年間何百回もある収録のひとつだけど、子どもにはめちゃくちゃ大舞台なんだなって。

 

だから子どもにとって、収録は一世一代のハレの場。今日収録に来た子とまた会う機会は、2度とないかもしれない。そのとき「うたのおにいさんは子どものハレの場を任されている、責任重大な仕事なんだ」と思った。僕がおにいさんとしての自信がある、ない…と言ってる場合じゃないと。

 

── 坂田さんは「うたのおにいさん」として、子どもたちの前にいるわけですもんね。

 

坂田さん:そう。だから、僕がおにいさんとして正統派じゃないとしても、子どもにはそんなことまったく関係ないんだから、とにかく真剣にやらなきゃいけないんだと気づいたのね。で、それは収録に来た子だけじゃなく、テレビで番組を観てくれる子どもたちに対しても、同じことだと。それまでも僕なりに頑張ってはいたけど、その責任の重さを自覚してからは、より頑張ろうと思った。あと、もうひとつ思ったのは「この子たちを裏切っちゃいけない」と。

 

── 裏切っちゃいけない、ですか。

 

坂田さん:絶対に、一生裏切れない。そのときから子どもたちの存在はずっと、僕の心のストッパーになってます。たとえば、普段の行動や、なにか仕事を受けるときとかもね。「子どもたちを裏切ることはできないから、ちゃんとしていよう」って思いましたね。

 

坂田おさむ
2025年、ミニミュージカルゲストとして「歌の王様」に扮する坂田さん

── 番組を卒業してからも?

 

坂田さん:そうです。だって、卒業後に北海道の大平原の歩道を渡るときも、ちゃんと信号を守ったもの。視界一面が草原で、車は絶対来そうにない国道ね。そこで信号機が赤になったので、誰もいない横断歩道をポツンとひとり、黙々と待ちました。そのとき「俺、完全におにいさんになったんだなぁ」って、しみじみしましたね(笑)。