実は一度お蔵入りになった『どんな色がすき』

── 坂田さんといえば『どんな色がすき』もエバーグリーンな歌になりました。

 

坂田さん:これは1992年、僕が現役おにいさんのときにつくった歌で、神崎ゆうこおねえさんと一緒に歌ってますね。

 

坂田さんが「うたのおにいさん」だった当時に発売されたCDアルバムのジャケット(現在廃盤)

番組のオープニングは僕らの周りに子どもたちが座ってるんだけど、ある日の収録前、もう本番カウントが始まるってときに、ひとりの女の子が僕のほうに近寄ってきたのね。なんだろうと思ったら、その子が突然「わたしね、みどりいろがすきなの」と言いだして。

 

── 収録直前に!それでどうしたのですか?

 

坂田さん:うたのおにいさんとしては、子どもたちを落ち着かせて「さあ、今から始まるよ」という空気をつくらなきゃいけないわけ。だから僕は「うわ、どうしよ」と思ったんだけど、周りの子たちも口々に「ぼくは、あか!」「わたし、きいろ」とか言い始めちゃってさ。

 

そうなると、子どもは収録なんて忘れちゃうから、もうダメよ(笑)。結局、ディレクターから「一回止めまーす」って言われて、仕切り直し。僕もディレクターに「ごめんなさい」と謝って。でもそのとき「子どもって、とにかくすきなこと、特に色を言いたいんだな」と思ったんですよね(笑)。

 

── 子どもは、思いついたことをすぐ言いますよね。

 

坂田さん:そうなのよ。だから「そうか、わかった。君たちは収録が止まるくらい言いたいんだな。じゃあ僕が、いつか歌にしてあげるよ」と思って(笑)。だからこの歌は色の名前をただリピートするだけで、悪くいえばストーリーがなくて。実は、一度ボツになったんです。

 

── お蔵入りに?

 

坂田さん:『おかあさんといっしょ』の新曲打ち合わせのとき、あるディレクターに聴いてもらったら「こんな歌はダメ」と言われて。それで数年寝かせて、別のディレクターにしれっと提案したのよ。そしたら「いいんじゃないですか」って(笑)。それでデビューできたんです。

 

── そんな経緯が。

 

坂田さん:危ういところでした。でも、この歌はいまだに人気がありますね。だから日の目を見られてよかったな、と思っています。

 

坂田おさむ
坂田さんは自身のYouTubeチャンネルでも『どんな色がすき』を歌っている

── 歌詞で「どんな色がすき?」と聞いて、子どもが色を答えるかけ合いが楽しいですよね。歌詞のラストを「ぜんぶの色がすき」としたのは、なぜですか?

 

坂田さん:「ぜんぶの色」については、「多様性の尊重を先どってますね」なんてほめていただくんだけど、つくった当時はそんなたいそうなことは考えてなくて。ただ、特定の色を否定したくないとは思ったかな。

 

歌の中には「あか、あお、きいろ、みどり」の4色しか出てこないんだけど、色数って本当は何千、何万とあるでしょう? でも、歌に自分のすきな色が出てこないうえに、たとえば「金色がいちばんいいよね」とか言われたら、なんだか…ね。だから、最後はもう丸ごと「ぜんぶの色がすき」にしちゃおう、という発想なんです。そうすれば、みんなうれしいじゃない? もちろん、皆さんは色の名前を自分のすきな色に変えて歌っていいんです。楽しんで歌ってもらえればうれしいです。